冬の寒さを感じながらも春の訪れを感じる2月の終わり、僕は畑にいました。
草だらけ、土カチカチのもと田んぼを一から耕し、ここに野菜を作る。突然始まった菜園生活。
「まずはとにかく土を耕さないと」
手押しの耕運機をかけていると、突然土がもぞもぞと動き出しました。
「何事!?」
思わず機械を止めて近づくと、モコモコと土が盛り上がり、そこから1匹のザリガニが出てきました。まさか畑からザリガニが出てくるとは思っていなかった僕は、
「うそ~!」
とあたりに響くくらいの大きな声を出してしまいました。
水辺の生き物だと思っていたザリガニがまさか土から出てくるとは。でもそのザリガニは普段見るような力強さはなく、ハサミも上げて威嚇したりもしません。
「大丈夫かな?」と心配になりました。
でも理由はすぐに浮かびました。
「そうか、冬眠中だったのか!」
ザリガニが土の中で冬眠するとはこの時まで知りませんでした。冷たい土の中で、暖かな春が来るのを、土だらけになりながらもじっと待っていたんです。
僕は知りませんでした。どんなに元気で強そうな生き物でも、華やかな部分だけじゃなく土にまみれたり、弱々しくもじっと耐える時期があるんだと。
僕は今まで常に元気で明るくいなければいけない、強くいなければいけない。そう思っていました。確かにそれも大切です。
でも「時には弱くたっていい、元気じゃなくたっていい。だって生きていればそういう時期だってあるんだ!」
このザリガニを見てそう思えるようになりました。長い人生の中でずっと穏やかな春なんてことはありません。「その時々の季節の中で自分らしく感じ、考え、生きていけばいい」そう思いました。
突然の出会いだったこのザリガニは、僕に大切なことを教えてくれました。