私たちは実は〝定休日女〟である。
事前に「行こう」と決めて向かった酒場が定休日。
月1(または月2)の呑み歩き日でも毎回と言っていいほどぶち当たる。
「え」「まさか」はほぼ毎回っ。
定休日を調べてから行っても臨時定休だったりする。
ボートレース場の場外で青空呑みをしようとしたら開催日でなかったため入れなかった。
行こうと決めていた芝居小屋が休館日だったり、あいていると思ったらその日座長だけ休演ということもあった。
天王寺動物園で気に入った「ヌートリア」を観たくて再訪すると居なかった。
あ、これは定休日ちゃうか。
ちょっと酒が入っていた私たちは受付に訊きに行った。
「ヌートリア! どこに行ったんですか?」「ヌーさんは亡くなりました」「えー!!」
先日もそうだった。
ひさびさにHomeのひとつである阿倍野「正宗屋」に行こうとしていた。
一杯やってから、いいお天気の中、新世界・通天閣下の劇場まで歩こうというプランだったのだ。
相方である斎藤さんに連絡をし、よし、待ち合わせ。
実は正宗屋でも毎回定休日に泣かされているので注意はしていた。
コロナの自粛期間で振り回されていたのも大きい。
だから、もう覚えている。定休日は「火曜日ですもんね」今日は、月曜日っ。
と、思ったら待ち合わせに先に到着した斎藤さんからLineが来た。
「休みです!!!」しかも同じフロア内にある「明治屋もまだ開いてません!!」
意気消沈しながら行ってみたらさらに同じフロア内にある赤垣屋も開店前だった。
ちょっと話が脱線するが、酒場エッセイらしく、これらのお店の紹介もしておきたい。
明治屋は昭和13年創業の老舗酒場、元の場所から「Viaあべのウォーク」へ移転をした。
酒を愛してやまない作家・太田和彦氏が著書『居酒屋大全』の中で「日本三大居酒屋」と紹介している名店だ。
一方、赤垣屋は大正12年からの歴史を持つ、難波に1号店、大阪を中心にチェーン展開している、明るいチェーンの「お立ち呑み処」。
入店すると「おかえりなさーい」とか「おつかれさまーっ」と迎えてくれるのが嬉しい。
この阿倍野の赤垣屋に初めて行ったのが正宗屋の臨時定休の日だった。
マニュアルである「お疲れ様です」「おかえりなさい」に泣いた。
季節のおすすめメニューを薦めてくれ、アテのシェア用の取り皿などにも気を配ってくれたことにも泣いた。なのに、その後一度も行っていない。
一方、明治屋では洗礼を受けた。初来店にしておでんを頼むとおかあさん店員に怒られたのだ。
「おでんなんか後から食べ。お腹いっぱいになるやろ」
やさしいのか、厳しいのか。いや、たぶんやさしいんやろなあ。
太田和彦さんも怒られたのかなあ、と思いながら素直に別のものを注文した。
そんな定休日女たちは、これまで5年程の酒場巡りの際に、いろんな「●●女」にもなってきた。
あれは出会って最初の頃。
九条(阪神電鉄「九条」駅)にある芝居小屋を訪れ、その後ふらふらと「よさそうな店」を探すことになった。
なぜか「馴染みのない駅で降りてみます?」という謎テンションになり、地下鉄谷町線だったか中央線、どちらに乗ったかは忘れてしまったが、わいわいと喋りながら「谷町四丁目」で降りることにした。
大阪城にも近いし、天下のNHK大阪放送局の最寄り駅でもある、きっと味のあるいい角打ちや大衆酒場があるに違いない。
なかった。
私たちがまだ「酒場ビギナー」だったからかもしれない。
チェーンの大箱居酒屋しかなぜか見つからず、さまよい歩いた。
「なんでー?」「会社帰りのおっちゃんら、どこで呑んでるんー?」
やっとのことで、立ち呑みではないが、大きめの一軒家のような大衆酒場をやっと見つける。
しかし平日、コロナ前の金曜日夜、店は満員御礼の満席だったみたい。
がらがらっと引き戸をあけて、2人して元気よく「いけますかー?!」と尋ねる。
今も忘れられない台詞が飛んできた。「間に合ってませんー!」
今となっては笑い話でしかない。でも、こんな返事、あるぅ?!
もう一軒、これも初期の話をする。
大阪市阿倍野区、JR天王寺駅裏に「阪和商店街」と呼ばれるエリアは、あべのハルカスを中心とする〝再開発エリア〟の中でも色濃く昭和感を残す場所だ。
インスタ映えするスポットとしてもお馴染みの地域だそうだが、ここに有名な立ち呑み屋がある。これも、テレビや雑誌などでお馴染みすぎる1軒。店名は「種よし」。
言葉の説明よりもまずは写真をご覧いただく方がいい。
このあたりをよく知る斎藤さんと「よっしゃ呑むぞー」と勢いよく来たのに、だいぶ並ばないと入店することが出来なかった。
意地で、頑張って、待って、入店。さあ、瓶ビールと、恒例のポテトサラダで乾杯や。
ところがである。
メディアでも何度も取材を受ける人気名物女将の私たちへの扱いがなんだか邪険だ。
「もうちょっと詰めて」と端に端に追いやられる。
のは当然のこととして、なんだか、どうやら、注文をしても、あっさりすぎる塩対応なのだ。
いや、きっと元々こういうシャキシャキはきはき女将なのだろうことは承知の上なのだけど。
ふと見れば、隣にうら若き女子たちがキャーキャーと騒いでいる。
隣のおっちゃんたちも盛り上がっている。
彼女らがお箸を向けている先、お皿の上には、サソリ。サソリの唐揚げ!
女将さんはさかんに「写真撮りやー。撮ったるでー」と笑っている。
そう、この「種よし」は安くて巧い立ち呑みであると同時に、変わり種(ゲテモノとも言う)も名物の酒場なのだ、とは、店の短冊を見てすぐに理解した。
サソリ、カエル、イモリ、サメ、ワニ、カンガルー、ワニ、むつごろう、コウロギ(コオロギとは書かれていない)、熊の手。中でもサソリは「映え」ると人気なのだそう。
私たち2人はいつもフザケてるけれど、食べ物に関しては妙にこだわりがあるというか頑固だ。
映えは狙っていないとは言えない、でも、これは、頼めない、頼みたくない。
サソリも、イモリも、要らん。例え食べたほうがネタになろうとも、要らん。
そんな「スレたかわいげのない客」は、(たぶん)、店には、要らん。
隣のおっちゃんは「くさや」を でも、くさやとサソリではサソリが勝つらしい。
店の前に入店待ちのお客さんらはまだまだめっちゃ並んでるし、この日はさくっと退場することにした。
並んでいるおっちゃんらが「入れるかなあ」なんて中を覗き込むようにしているので、一言かけて帰った。
「並んでたらすぐ入れますよ!」
「サソリあるで! 是非サソリ食べて下さい!」
定休日女。ヌートリア居ない女。おでん怒られ女。間に合ってない女。サソリ食べへん女。
そんなこんなでこの日は、Viaあべのウォーク近くの謎の店にとりあえず入り、お昼ご飯を食べるサラリーマンさんたちを横目に、お昼から乾杯をした。
店は阪神タイガース色超強め、BGMの有線ではひたすら懐かしい懐メロが流れている。
ジュリー、太田裕美、渡辺美里、レベッカ、ジュリー。
「あかん、ジュリーが気になって話に集中できない」
「今、頭の中をジュリーが飛んでます」(※TOKIO)
そう、斎藤さんは〝リアル世代〟女、わたしは仕事で懐メロにかかわって来た女。
2人共グラスを片手にずっと振真似が止まらなかった。
そこから歩いて、新世界下、続いては私たちのもうひとつのHome酒場「酒の穴」を訪れた。
しかしまたまたショッキングな事実が発生、いつもの馴染みの店員兄ちゃんが居なかった。
そういえば、毎回行ってるけれど、前にも居ないときがあったなあ。
と、会えた時に伝えたら「俺に会えんでさみしかったか?!」と笑われたなあ。
「うん」「さみしかったー!」
2人してノリよく返してしまうのももう癖だけれど、本音ではある。
代わりに別の店員さんと常連さんらしきおじいちゃんがニコニコと迎えてくれた。
「ここ、なんでもおいしいで」
知ってるー! と返すとかわいげがない。
と、頭で考えるより先に2人共声が出る。
「おいしいー!」
おじいちゃんはニコニコして、帰る際も「ほな、先帰るわな。ごゆっくり」と声をかけてくれた。
いつもと違う店員さんだからだろうか。頼んだ串カツの本数が1本足りなくて、でも親切に申告をしてくれた。
「あれ? チーズ1本やったっけ? 2本やったっけ? ごめん、もう1本すぐ揚げるわ」
でも「大丈夫!」「また明日来るから」結局、翌日行かなかったけれど。
人見知りのくせに知らんおっちゃんとすぐ仲良くなれる女ぶりも、毎回、発揮。
次回こそ、阿倍野の正宗屋に。
と、言いつつ、二度あることは三度ある。
また「定休日です!」「えー!」っとなるのかもなあ。
いや、もう二度三度どころとちゃうで、しかし。
ちなみに、この店はいつぞやシメに「おにぎりが食べたい」と言ったら、
お店のおかあちゃん店員が「コンビニで買って帰りぃな」と言いながら賄い用の冷凍焼きおにぎりをチンして出してくれた店だ。
あの後、お品書きの短冊には正式に「焼きおにぎり」が追加された!
そう、私たちは、定休日女やけど、店のメニューを作っちゃう女でもあるのだ。
今後、更なる「●●女」になるか、なれるか、ならないか、
そんなこともドキドキしながら、楽しみにしていたりもする。