Tabistoryだより ――2020年5月24日


 世界が変わった――心の中で、わたしはときどきそんな言葉をつぶやく。

 日本でも緊急事態宣言が出されてからおよそ1か月半、ようやく北海道や関東など一部の地域をのぞいて宣言が解除された。
 けれども、一度でも頭の中に刷り込まれたコロナウイルスの恐怖は、そんなに簡単に消えるものではない。

 もしかすると、わたしたちはこれから長い間、コロナウイルスと向き合わなければならないかもしれず、一度身に付けてしまった粛々とした心構えが今後もさまざまなところで顔を出すことになるだろう。
 仕方ないとは頭の中で分かっていながら、少し悲しい気がする。

 ときどき重苦しい気持ちに支配されながら、それでも何とか生きていける、そう思えるのは家族や仲間がいるからなのだと、しみじみ感じる。
 今は簡単にその思いを現実の相手と向き合い、形にできる人は少ないかもしれない。でも、<そういう存在がわたしにはある>と感じられることで、きっと前に進んでいけるのだ。

 先週連載をあげてくださった中村桃子さんの文章にも、大切なものへの思いが綴られている。

「6、またあの〝劇場〟で ~我が良き場所よ友よ~」

 ありのままの自分を受け入れてくれた人や街。けれども正直になれない自分のなかに少しずつ溜まっていたわだかまりが爆発し、ほんとうに大切なことに気づく。何度も書き直された、中村さんの思いがあふれた文章だった。

 いま、世の中を見渡せば、実にわたしたちの中にもたくさんのわだかまりが生まれている。
 コロナウイルス禍の本質は実はその病だけでなく、知らないうちに病んでいた心や社会を認識し向き合うという「闘い」なのかもしれない。

 わたしたちは何を学び取り、手渡せるのか。
 最初で最後かもしれない未曽有の出来事に、いま、それが試されている。