暗い夜道を照らす道しるべ


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 僕が農家で働いていた時、帰りはいつも真っ暗でした。
 帰る道の途中で山道に入っていきます。その山道は街灯もなく唯一の明かりは僕の乗るバイクの明かりのみでした。

 そこで今まで色々な生き物に遭遇してきましたが、一番怖かったのは2mほどの距離で大きなイノシシと対峙した時です。あの時は本当にびっくりして固まってしまいました。
 突進されたらひとたまりもない、そう思い身動きできずにいると向こうも全く動きません。数秒の沈黙の後、勇気を出してクラクションを鳴らすとビックリして逃げていきました。

 そんなイノシシも出る道を帰っていたある日、バイクで走っているとライトの先15m程の道の真ん中でぼうっと小さく一瞬光りました。
「なんだろ?」とスピードを緩め、バイクを止めてエンジンを切ると一瞬で辺りは真っ暗になりました。鳥の声、木々の葉がこすれる音などがやけに大きく聞こえます。暗闇は怖いけど、どうしても気になります。光った場所にゆっくり近づきじっと見つめますが中々光りません。

「気のせいかな?」と思っているとボウっと僕の足元が淡い黄色に浮かび上がりました。
「もしかして!!」しゃがみこんで見てみるとそこには小さな「蛍」がいました。小さく灯す明かりを頼りにそっと手に乗せると急に安心したかのように何度も僕の掌を照らします。

 蛍は繁殖するためのパートナーを自分が光ることで見つけてもらうのですが、今回はそのおかげで轢かずに救出することができました。もし光らなければ僕かほかの車などに轢かれていたかも知れません。手の中で、命を繋ぐために一生懸命に合図を送り続ける蛍を見て僕は思いました。
「今までこの蛍みたいに頑張って光る努力をできていたのかな?」と。

 僕には夢があります。でも、それを諦めかけていました。何をしても上手くいかず、叶えるためにはどうしたら良いか分からなくなってしまったからです。でも、この出会いをきっかけにもう一度夢を叶えるため、一生懸命に光る努力をしようと決めました。
「今できることを無我夢中でやる」それしかできませんでしたが、そうしていると一人の方が僕を見つけてくれました。そしてそこから素敵な出会いが沢山訪れてくれて、夢への道も小さくも1歩ずつ進み始めました。

 僕はあの日出会った蛍に大切なことを教えてもらいました。
 夢だけじゃない、生きるのに辛くて苦しくて先が見えない真っ暗な道でも、諦めずに光り続けていればきっと誰かが見つけてくれると。それは簡単なことではないし、全てが報われるわけではないけど、その光りが導いてくれる出会いもあると僕は思いました。

 そして今度はそんな「頑張って光る誰か」の力になりたい、そう思います。
 


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