先日はじめての立ち呑み屋さんで知らんおっちゃんに「餃子の王将ストラップ」をもらった。
ミニチュアの餃子。ポイントスタンプいっぱい貯めたらもらえるやつ!
天王寺は阿倍野の素敵角打ち「花野商店」の常連さんの鞄にさっきまで付いてたやつ!
「うわー! かわいー!」「餃子めっちゃかわいー!」
「あ。これ? 差し上げましょうか?」
おっちゃんはわざわざ鞄から外してくれた。
めっちゃデッカい「チーかま」齧りながら、瓶ビール半分こしてた女ふたりに。
いやいやいやいや!!!!
「いーですいーですいーです!」「そんなんで言うたんちゃうし!」
「どうぞ。こんなもんやけど(笑)」
えー! うわー! わぁー! いいんですか。
「いいですいいです」
すみませんー! わー! ぎゃー! ……やかましいな!!(笑)
外はあいにくの大雨だったのだが、二人してほっこりニッコリ。
ハシゴした次の店でも、その食べられないちっさい餃子をアテに呑んだ。
あれスタンプ何個貯めたやつやったんやろ。
改めて振り返ると申し訳なさと反省はある。しかし、私たちの気まぐれ立ち呑み巡り旅は、いつもこのように素敵な出会いで溢れている。物までいただいてしまったのは初めてだが。
いつもおっちゃんたちの優しさや情、時に人生のカケラのようなものに触れ、グッとくる。
呑んでいる最中は二人揃って「うえーい」となっているが、ほろ酔い(酩酊?!)→帰宅→睡眠→翌朝、思い出しては泣き笑い。
呑む、食べる、喋るだけじゃなく、こうした出会いがあるから、〝心はだか〟の二人揃ったぴったんこの旅がやめられない。
程よい賑やかさと活気が心地よく、何を食べても安くて美味しい。
あの酒場詩人・吉田類センセイも訪れたらしい名店だが、私たちにとっても〝ホーム〟のひとつだ。
元は斎藤さんが、朝、身内のお見舞いの隙間をぬって粕汁とビールでモーニングして戻ったら、
「あんた顔赤いで? って言われて」
な店であり、縁あってはじめて二人で呑んだ際も一軒目に行った記念すべき店。
ある日、旅芝居の舞踊ショー前に駆け込んだ。
「そんな長いことおらんからいいですかー?」
珍しくめちゃくちゃ混んでいた。私たちの後に来た一見のサラリーマンがなんと7人で来たのもあるのだろうか。様子を伺いながら、
「(注文)いけますかー?」
カウンターの向こうでは数名の店員さんが忙しそうに動く中、ひとりの元気な店員さん、おっちゃん、いや、おにいちゃん、いややっぱりおっちゃんが即答、
「いけませーん!(笑)」
いや、なにそのノリ! (笑)ちなみにこの店員さんとは初対面!
「今度はもうちょっとはよ来(き)ぃなぁ(笑)」
親戚の兄ちゃんかいな。もうホーム、っていうか家やなあ。嬉しいなあ。
店員さんに遊んでもらえることも多いが、常連さんと仲良くなったりもする。
前回紹介した西成・(元)てんのじ村にあるオレンジ屋根のビニールシート「かんむりや」での話をしたいのだが、今回は同じ西成の「立ち呑みフレッシュ2号店」の話をめっちゃしたい(いつまで引っ張るねん。大した話ちゃうやろ)。
別名は「フレッシュマート」。
やっぱりスーパーだった(過去形? 現在形?)のかなぁ。スーパーの奥で呑んでいる感じなのである。
入口右手にはパックのお総菜たちが冷蔵庫に。カップ麺やお菓子の棚もある。左手にカウンター、そしてテーブル席がいくつか。
お客さんはそれぞれ食べたいパックを手にとって席に着く……のだが、そのまま食べるのではない。エプロン姿の笑顔が可愛い妙齢のお姉さん(ひとりで店を切り盛り)が「温めますか?」と聞いてくれ、レンジでチンしてくれ、さらにパックのままでなく、ちゃんとお皿に入れてくれる。細かいことだがちょっと感動した。
が、私たちはその日、パックのお惣菜ではなく店内のメニュー札に書かれている「ハムエッグ」を頼むことにした。お姉さんが焼いてくれたのは目玉がふたつのハムエッグ。半分こ出来るのが嬉しいなあ。
あっちのテレビではミヤネ屋、こっちのテレビでは水戸黄門。でもお客さんどちらもそない興味なさそうで。 ひとつのテーブルでは小太りのおっちゃんがYouTubeでずっとエリック・クラプトンの動画観ながらチューハイを呑んでいた。ツッカケ(サンダル)には大きな太文字で「STARWARS」。
奥のテーブルにはキャップにベスト姿の二人組。釣り人がよく着てるポケットいっぱい付いたアレ。
よぉ喋るおっちゃんと聞き役の物静かなおっちゃん。おっちゃんにもキャラと役割分担があるんやなあ。
後から山本晋也監督風のおっちゃんが来てカウンターに加わった。そして! 気づけば私たちはこの4人と一緒にテーブル席でわいわいやってた!
よぉ喋るおっちゃんの名はキミオさん。
「NO、NO、アイアム〝ミッキー〟」
自称50歳、うそ、70前。98%が下ネタで2%が「昔の俺すごかったんだぜ」話のナイスガイ。
九州出身で成人する前に家を勘当されて大阪へ出てきたと言う。
若き日は東京・自由が丘のサパークラブに勤めており、それはそれはモテたらしい。
今はただの〝ベロベロキャンディ〟(本人談)。飲み干した発泡酒の空き缶を何本も目の前に並べてボトルキープの焼酎をがんがん呑んでいる。でも当時の名残が感じられたのは、私たちに何本もビールを御馳走してくれ、しかもその頼み方がスムーズだったこと。つい断るタイミングを逃してしまった。
聞き役をしている、深い皺がすぐ笑顔になるおっちゃんは九州は小倉出身。
「小倉?! 無法松やん!」
と言ったらめちゃ嬉しそうな顔。
「村田英雄やないか。♪小倉生まれで…」
うん、ミッキー、歌わなくていいよ!
ミッキーはその後、隙をみたら美空ひばりの「リンゴ追分」を歌いだした、踊りながら。
私たちが旅芝居好きと言ったからかもしれない。
〝クラプトン〟は皆との話には加わらず、けれど、どうやら私たちと音楽の話がしたいらしい。自分もギターをやっていると言う。
「私今度シンディ・ローパーのライブ行くんです!」
と斎藤さんが言うとポール・マッカートニーについて語り出した。
「でも僕はクラプトン命なんですよ」
どないやねん。
後から来た山本監督は奈良出身で、言われてみればなんだか穏やかだった。全然山本監督ちゃうやん。
〝おっちゃん転がし〟の斎藤さんはすっかりミッキーに気に入られ、無法松と三人で次の店へ行くと出て行ってしまった。止める間もなく! 店の名前も教えてくれんまま! どないしたらええねん!
仕方がないのでクラプトンを語りたいスターウォーズと山本監督と音楽話などしていたらラインが来た。
「ここに居ます!」
山本監督は心配して一緒に来てくれることになった。
クラプトンはカウンターのおねえちゃんに、
「ねえ? ギターない?」
と何度か声をかけるがどう考えてもないとわかりまた動画を観出した。
ということで、Google先生ありがとう、私は監督と共に写真のスナックへ。
歩きながら監督はしみじみ(呆れてた?!)と、
「自分ら、ええコンビやなあ」
とポツリ。
ちなみに監督はミッキーと無法松とは初対面だと話してくれた。
「嘘やん。ずっと仲間やと思ってました」
「いいや。今日初めて喋った」
すみませんでした。
スナックでは優しいママさんの笑顔と他のご機嫌客が歌うムード歌謡の中、ミッキーと斎藤さんがめちゃ盛り上がっていた。早速監督も加わった。騒ぎたいんかい。
私はなぜか無法松さんの半生を聞くことになった。
「momoちゃん。僕らな、今日楽しいわ。二人に会えて良かったわ。また来てや」
深い皺を笑顔にして言ってくれてほろっとしたのである。
「なんかやかましい二人ですみません」
と伝えると
「いやいや、わしら毎日仕事終わったらここ(フレッシュマート)へ来てるからな。こんな日ぃあると楽しいねん」
「子どもの門限のことでな。そら、今も会いたいで。せやけど、男がいったん言うたことや。今更引けんやん。ほんでずっとこの街に居てるねんわ」
ああ、若くないくせに小娘、なにを言ったらいいのだろう。こんな時軽々しい言葉は返せない、返したくない。やっとの思いで
「おっちゃん、ありがとうな」……しかしカラオケほんまうるさいな!
「二人はなんか歌わへんのか?」いやいやいや、それより、
「おっちゃんは? いつも何歌ってるん?」
無法松さんは答えた。
「僕か、僕はいつも『ラブ・イズ・オーヴァー』」
ああ、だから、好きやねん。
毎回の旅を振り返りいつも思う。一回一回の出会いを大切にしようと。
一期一会っていうと軽いなあ、ベタやなあ。でもでもほんまにそれやなあ。
今そこで、その日その時その店で会えるって不思議な縁で素敵な縁。
私たちは所詮〝よそもの〟だ。よく思わない人もきっと少なくはないだろう。けれどこの旅で出会った人……言葉を交わす人も交わさない人も、ツッコんだり、実は全然好きじゃない下ネタも含め、すべての人の人生のカケラに触れて、いっぱいいっぱいの力をもらえるのが幸せだ。
綺麗さ快適さ個別の空間が保証されてるチェーン居酒屋や店主こだわりのお店ではなく、みんなとの距離が近く近すぎる立ち呑み・大衆酒場だからこその、素敵な縁。
実は私たち二人は普段はかなりの人見知り。私は自他共に認める人見知りだが〝おっちゃんキラー〟の斎藤さんも人見知りだと言う。
不思議な縁で知り合ってこの酒場ツアーを始めた最初の夜、酒場→芝居→酒場ですっかり意気投合した帰り道。
地下鉄動物園前の改札を出て、違いに別方向に帰る際に斎藤さんがニコニコ(へらへら?)と、
「同じくらい人見知りで安心しました」
思えばこの〝名言〟が旅の始まりだった。
そんな私たちだからこそ、みんなが素で、私たちも〝心はだか〟のこの旅で起こる様々なドラマが愛しく嬉しい。
そりゃ酒場とはいえ、知らないおっちゃんと仲良くなりすぎるのはいいこと(だけ)ではない。たぶんよろしくはない。
けれど、ええ意味で若くはなく色々あった女ふたり、いい距離やあしらい方(失礼)を進行形で学びながら、すべてはきれいごとではないと自覚しながら、でも人を信じ、また酒場巡り。
それにね、私たちがあまりにアホだから? 色気ないから? いや、ええ歳してお気楽な小娘だからだろうか?
出会うおっちゃんたちは皆、男の顔でなく「お父ちゃん」の顔になっている。
アホな娘たち、心配かけてすみません。
あれから斎藤さんは餃子ストラップを財布に付けている。
「財布出すたびに周りの視線気になりますが(笑)」
爆笑してたらなんとまたラインが来た。
「momoさんのも買いました。メルカリで」
私も財布に付けなあかんのか? ねえ、あかんよね?!
立ち呑み・大衆酒場ってなんか劇場みたいやなあ。
私たちも含めみんなみんなが主役やねんなあ。様々な人が集う場所、生い立ちも考え方も生き方も違う人びとが集ってその日その時の空気が出来上がる。そして、舞台の上では「全部出る」。
怖くもあったり楽しくもあったり。だから毎回の旅がまだまだ飽きない。
おっちゃんたち、いつもいつもありがとう。
そして、今これを読んで苦笑いを含め笑ってくれているあなたにもありがとう。どっかの酒場で会えますように。
うん、会えるよね!