12.瓶ビールとどこでもドア ~生ビールもいいけどねの巻~


ひさびさの再会は生ビールから始まった。

 

 

コロナの影響を受けてなんと我々的には今年初の「ぶらり梯子酒」!
集合場所としたのは鶴橋、大阪が誇る焼肉の名所だ。
でも焼肉を食べに行った訳ではない。
お目当ての旅芝居の劇場に行く際に、乗り換え前の待ち合わせ場所として選んだのだ。

近年の韓流ブームの影響だろうか。
駅前に立つコリアン商店街の風景も以前とは変わっていた。
若者好みの洒落た看板なんか立っちゃったりして。
ヒョンビンやBTSが居たりして?! きゃー!
などと、しょうもないことを考えていると、あれ? 斎藤さんがちょっとどや顔をしている。
「私、実はさっきもうこの看板と街並みをインスタに載せました!」
見てみるとめっちゃ「映え」ている。
「これ、「韓国なう」って呟いてもええんちゃいます?」
「バレへんかなあ?(笑)」

ぶらぶら散策をしてお昼前から呑めそうな店を探す。
露店のようにたくさんの店が立ち並び、キムチやキンパやチヂミが売られている。中で食べられる店もある。
きっとビールもある……はず! 絶対!
「呑めますかー?」
「はーい!」
活気のある1軒に狙いを定めて訊ねてみた。
お姐さんの笑顔に導かれて入店、さあ、再会を祝してビール!!
ところが……「えー!」「瓶がない~」。でも、ま、いっか。
「生2つー」。

 

 

グラスをキンキンに凍らせた生ビールがやってきた。
「めっちゃ冷えてる」
「これはこれでめっちゃ美味いーー」
アテとして選んだのはキンパだ。
韓国版の巻き寿司である。2人共に好物なのだ。
(しかも斎藤さんは帰りにお土産にまで買って帰ったというオチ付き)
キンパはアテにちょうど良い小さめサイズで、
でもキムチも数種類添えられていてまさにお酒のアテだった。

 

 

中でも、山芋のキムチ。実は以前から好きなのだが、この日は特にサクサク・ピリ辛、家でも作ってみたいな、出来るかな、というほど気に入った。
斎藤さんが一番おっきなやつをくれたのもちょっと笑った。

ちいさな店の中には先客が居た。
お化粧くっきりの美女2人がテーブルいっぱいに料理をひろげていた。
声はかけないけれど心の中で語りかけた。
「いいですよね、正午前の女子会」

さて、お次はお目当ての劇場がある北巽の駅へと移動。
昨年、ちいさな芝居小屋がオープンしたこの駅には、サイゼリヤ、回転寿司、ミスタードーナツ、ファミリーレストラン……。
「何これ、駅前に全部揃ってる!」
悩んだ末にたこ焼き酒場を選ぶことにした。

 

 

大阪を中心によく見かける、お好み焼きやたこ焼きのテイクアウト店が経営する居酒屋だ。
後から調べると本社は東大阪市らしい。こてこて!
「舞踊ショーを観る前にサクッとたこ焼き呑みしますかね」
軽い気持ちで入ってビックリした。
揚げ物からお昼の定食からお酒の種類も日本酒も焼酎もありなんともまあメニュー豊富。
普通になんでも食べられるファミレスやん。

広々とした店内では、ちいさな娘さんを連れたお父さんがランチ呑みをしていた。微笑ましい。
私たちはまたまたしょうもない話をしながらメニューに目を通す。
「お好み焼き定食って、ありですよね。そんなんありえへんって人多いんですけど」
「全然ありです」
ところが……
「なーいーー」!!!
またしても瓶ビールがなかった。
いや、ええけど。ええねんけど。
たこ焼き4個って頼んだけど間違って6個来たんやけど。

 

 

で、間違っていることを伝えたら、謝って下さりながら「サービスでどうぞ」って。
ちょっと嬉しかったし、わいわい呑んでたら6個ぺろっと食べたけど!

1本の瓶ビールを注いで、注がれて、2人で分け合いっこしながらちびちびと呑むのが楽しくなったのは、この「旅」が始まってからのことだ。
それまではずっと生ビール党。ジョッキを傾けて一気に、3口ほどで呑むのが好きだ、今も。
でも「瓶1本とアテを〝半分こ〟」。
いつからともなく〝お約束〟となったルールが、近年、とても沁みてならない。

元々はいろんなお店を〝梯子〟をするため、お腹がいっぱいになるのを避けるためという単純すぎる理由だったのだけれど、けれど。
月1回、年齢も住んでいる場所も違うのになぜか相方となった我々が〝半分こ〟でぴったんこ。
コロナ禍で毎月の旅が出来なくなり、外でお酒を呑むことすら少なくなってしまった近年、特にこの「半分こ」と旅の有難さを噛みしめることとなった。なのに……。
「2連続ってウケますよね」
「めっちゃジワります」
でもきっと、こんなだから、おもろいのやろなあ、楽しいのかもしれへんなあ。

さて、旅芝居のショーでイケメンを堪能した後は、またまた鶴橋へと戻り、お目当ての店へ。
昼前はあいていなかったのでリベンジしたい店があった。
近鉄鶴橋駅から1分。てか、1分もかからない「大衆酒場 源氏」だ。

 

 

地下鉄千日前線鶴橋駅とJR鶴橋駅と近鉄鶴橋駅、3つの駅の乗り換え口が集まる一角にひっそりと佇む謎の店として、気になっていた人は多いのではないだろうか。我々もだ。
で、コロナ前に一度、直撃した。あけてみたかったのだ、この扉!

ガラガラっと開けて入った店は一瞬怯むほどに「THE 場末」の空気。
壁に、見事なまでにコの字型の店内に、名物だと後に知る串カツの油やおでんの出汁のすべてが、染み出して染まったような「年季入ってまっせ」感があった。
茶色くてすすけた雰囲気の中、おっちゃんたちがめっちゃ生き生きと、しかも自然に呑んでいる。
茶色の中で「今」をめっちゃ楽しんでいる。
レトロや「昭和の酒場発見」だなんてサブカル趣味で覗くには失礼だと思わされるほどに。
なんだか、目が覚めた。嬉しくなった。ツボにはまった。気に入った。
コの字型の真ん中には「THEおかあちゃん!」 みたいな女将さんがドーンッと立って、お客さんからの注文をおおらかにもテキパキと対応をする。
時代も好みもなにもかもを超えてすべてを受け止めてくれそうな貫禄だ。

さらに、もうひとり、マスコットガールが居る。
女将さんのお母さんなのだろうか。もっとドーンっとした人が座っているのだ。
料理を作る訳でもない。会計をする訳でもない。何もしないでずっと座っている。
たまにこっくりこっくり居眠りもしている。
もしかして私たちにしか見えない座敷童的な何かなのだろうか。
いや、違う、きっと彼女は同店の、もとい、鶴橋の招き猫あるいは福の神だろう。

ちょっと揚げすぎてる感のある岩石みたいな揚げ物。
何百年と浸かってたみたいな、静岡おでん以上に濃い見た目(でも味は辛くない)おでん。
さらに初訪問の際は会計時に謎のお土産までくれた。
常連さんが作ったのだろうか。
壁にコレクションされ飾られていた謎の貝で作った謎のブローチだった。
「好きなん持って帰ってええよー」「……」からの「いただきまーす!!!」
気持ち悪いとかわいいの中間なソレは、まさにお店の雰囲気を象徴しているようで。
なぜだが不思議と記憶に残り、また訪れたかった店なのだ。

コロナがあけて再訪した同店は、なーーーんにも変わっていなかった。
貝のブローチはなかったけれど、女将さんも、福の神も健在。
まるでコロナ前どころか、昭和、大正、明治、江戸から座っていたように。
夕方17時頃にもうホッピーでええ気分になってるおっちゃんや、思い思いに揚げ物とビールを楽しんでいるおっちゃんたちが嬉しかった。

 

 

そして、やっと出会えた、瓶ビーーール!!!
「あった!」
「やっと!」
「これ、これですよね」
感極まって瓶ビールを眺めている私たちをホッピーおじさんが不思議そうに眺めるも、すぐに自分のホッピーワールドへと戻っていかれた。
さあ、注いで、注がれて、改めて、「わー、乾杯~!!」

アテは定番にしよう。「おでんの、厚揚げ2個と卵1個と大根1個」
コの字型の真ん中からツッコみもといお叱りが入る。「ひとりずつ言うて~!!」
ホッピーおじさんがクスっと笑う。でも、またすぐにホッピーワールドへ戻っていかれた。この一瞬交わって、一瞬で帰る、まさに「一期一会」な関係もたまらず嬉しい。
いろいろもう既に大満足、瓶ビールに巡り合えたそのことだけでもう満足して、サクッと店を出ることにした。

帰りに、女将さんがなぜか「おつかれさま~」
そして「そっちの扉、ちょっと固いけど開くからね~」
そうだ、これ、きっと、時代も次元も気持ちも越える、どこでもドアだ、きっとたぶん。
すべての酒場や角打ちにはきっと、すべてを一瞬にして、今に連れていってくれる扉があるんだ。
コロナ前コロナ後、開いた時間、さみしかった、来たかった、会いたかった気持ち、すべてを一瞬で「今」にしてくれるようなドア。ちょっとしたお酒とお気に入りの食べ物と共に。我々の場合は「瓶ビール~~!!」。

先日、街中でちょっと「いいね」なポスターを見かけて立ち止まった。
よくよく見ると、サントリーのキャンペーンによるものらしい。ほっこり。

 

 

斎藤さんにも即、Lineで送り、共にほっこり。
で、これを見て、私はアサヒの同様のキャンペーンを思い出した。
どこの酒場で見かけたのかは忘れたのが、和田ラジヲによるゆる~いイラストで2人のサラリーマンが、
「まあ、まあ、まあ」
と瓶ビールを注ぎ合っている。そこに添えられた文字は、
「飲みたいっていうか、話したい」。
さらに瓶ビールの王冠のイラストの中にこのフレーズ、「#あえてのビン」。

せやねん。ほんまに、せやねん。
酒がね、好きやねんけど、別に好きじゃないんよなあ。
生ビールが好きやけど、瓶ビールやねんよなあ。
季節は春を過ぎて、もう夏の気配。
ますます、ビールの美味しくなる季節!
さて、ぼちぼちと。また我々も旅を始めることと致しましょう。
酒好きというよりも、それに伴ういろんないろんなものと相方が、面白好き、やから。
ハッシュタグ~!!


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