16.祭はつづく ~はなびと湯豆腐~


 桑田佳祐の『祭りのあと』って歌、御存じですか、好きですか。
 私はわりと嫌いじゃない。
 嫌いじゃない自分に苦笑いもする。だってこの歌が好きってなんか自分に酔ってる感ない?!
 
 近所のスナックの常連にこの歌が好きなおじさんが居る。会ったことはない。そもそも入ったこともない店。でもしょっちゅう聞こえてくる、熱唱が。
 某劇場に向かう駅のショッピングモールでもよく聴く! エモいオルゴール・バージョンだ。
 つい口ずさんでしまう。ハッとする。
 でも、感傷に浸ってしまう。酔ってるなあ!(笑)

 

 

 いきなり持ち出してきたには訳がある。
 10月、いつもの1日酒場巡り旅with 酒呑みの相方〝斎藤さん〟と訪れた酒場の店名だ。
「はなび」、正確には「大阪はなび」。演歌のタイトルではない。無論、桑田とも関係ない。
 大阪が誇る花火大会のひとつ「なにわ淀川花火大会」を観るのにサイコーな場所だからとか聞いた気がする(たぶん)、阪急電車もしくは地下鉄御堂筋線の梅田からひと駅の「中津」駅からすぐの店だ。
 
 椅子はビールケース。
 良く言えばオープンカフェ、普通に言えばオールウェイズ海の家。
 年季の入った人気の酒場、座れるけれど立ち呑みと言うにふさわしいこの雰囲気。昭和感満載。いや、アジアのどっかの屋台チックにも見えもする。
 どや?! この店構え?! 見よ! この手書きの短冊の山々!

 

 

 6月の珉珉餃子呑み(前回の記事参照)以来、ひさしぶりの2人呑み決行となり、頭に浮かんだのがこの店だった。
 実は若い頃に働いていた制作会社から徒歩数秒なのである。当時は近いのに訪れたことがなかった。仕事に行き詰まった際に歩く散歩コースに入っており、頭から煙を出しながら歩いていたら、おっちゃんたちが大きな声で陽気に呑んでいる姿が毎回観られた。
 以来、羨みと憧れの気持ちを持っていた店なのである。
 
 さて、当然(?!)1杯ひっかけてから訪れた我々。
 駅から歩いて店を訪れると「映え」な光景に目を奪われ……嘘、シャッターは半開き、提灯は灯っていない。
 でもオープン(状態)の店内ではサラリーマンが一人呑んでいる。ん、開いてるの?! 
 ふたり揃って声が出た。
「開いてますかー?!」
「開けようとしていたとこですー!!」
 リアル吉本新喜劇のギャグのようなやりとりを経て、快く中へと案内していただいた。

 

 

 最近あまり呑めない我々は「まずはビール」ではなく、斎藤さんはカルピスチューハイ、私は最近ハマっているキンミヤ焼酎のソーダ割りを選ぶ。
 そして何を食べよう? 斎藤さんが決めてくれた。
「トマト。これ、〝いわしお〟じゃないですよね」
「ないですね(笑)」

 

 

 岩塩トマト。と、らっきょう。おお、ヘルシー志向。そう、我々ももう若くない。
 相変わらずどうでもいい話ばかりをしてゲラゲラ笑いながら呑んでいるうちにあたりはちょっとずつ暗くなり、お客さんもちらりほらりと入り、ほわっといい感じに灯る。
 
 気付けば手前のテーブルには若いサラリーマンのおにいさんたちが3人で呑んでいた。
 どう見てもめっちゃフレッシャーズ。
 会話の内容は聞こえなかった(もとい、聞いていなかった)のだが、なんだか、まぶしかった。
 斎藤さんは帰ってから「かわいかった」を連発。わかる。
 秋の夜のはなび。アラフォーとアラフィフのはなび。悪くない夜だった。
 

 

 

「はなび」に行く前に立ち寄った店についても触れておきたい。
 素敵な貼り紙、「湯豆腐はじめました」これが見たかった。
「始まってた!」「来てよかった!」
 名物の湯豆腐を求めてコロナ前ぶりに訪れたのである。
 酒場の冷や奴は大好きだが、なぜだろう、湯豆腐のあの〝ご馳走〟感ったら、ない。
 やはり〝季節事〟の贅沢さなんじゃないかと思う。
 
 入店し、早速注文し見渡してみると、長いカウンターに並ぶ客全てが湯豆腐を注文していた。
 嬉しくなってしまい斎藤さんに耳打ちした。
「湯豆腐ブラザーズ、ですね」
 名も知らぬ、職業も知らぬ、今ここに集った皆で食べる季節の味。

 

 

 秋深き、隣は湯豆腐食う人ぞ。
 アホなことを思いながら、足早に帰路に急ぐ人々の足元を眺めながら、2人でちびちびとつついた。うん、2人で一個(笑)
「冷やし中華はじめました」もうれしいけど、「湯豆腐はじめました」って、たまらないなあ。
 
 あなたには、ありますか。
「ああ、四季を感じるなあ」みたいなアテ、サカナ、酒。
 ビールやハイボールもええけど、熱燗やお湯割りの季節やねえ。
 でも、あったか~い暖房の効いたところで呑む生ビールも、美味いよねえ。
 酒場で感じる四季と花鳥風月。
「酒場詩人」吉田類先生を尊敬する者としては、当然、覚え置かなくてはならないのだが、私たち2人は何年酒場を巡っていても、つい、スルーというか気付かずに来てしまった。
 でも、最近なんだか沁みるようになったのも、人生半ばを過ぎたからかなあ。
 
 さて、「はなび」で話していた〝どうでもいい話〟の中には、恒例の「プレゼント交換」もあった。
 実は私たちは毎月の酒場ツアーの際、なぜか互いにお土産を渡すのがいつからか恒例となっているのだ。
 互いの贈り物で盛り上がり、トマトをつついていたら、あっという間に時間が経ち、この日のお別れの時間となったのだが。
 斎藤さんからの〝お土産〟の中身は、謎の養命酒バスタオルと、ガシャぽんの「祭」提灯ガチャの中に祭グルメが入っている、というもの。……はずなのに、びっくり。
 提灯ガチャをぱかっと開けてみると、中身、空。まさかの、何も入っていなかったのだ。

 

 

「うそぉ! バンダイに電話せなあきませんよ! 不良品!!」
「いやいやいや、逆におもろいから。だからこれでええです。めっちゃええ」
 入っていたのはきっと、夏の残り香と、秋の気配と、冬への準備、の、空気、かも。
 
 祭りのあとやけど、祭りやねえ、毎日が。
 冬、なに食べようかな。湯豆腐と、やっぱ、おでんかな、待ち遠しい。
 養命酒で体を整えながら、旅はまだまだ続くのである。

 

 


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