17.庶民のオアシス ~チェーン大衆酒場はカフェなのだ~


 

 

 

 大阪に晩杯屋が出来た。
 昨年2022年8月に初出店。
 続いて2軒、3軒目、現在なんと4軒も出来た。
 初出店の噂を聞いた時は嘘だと思った。
 出来て欲しいと思っていたけれど絶対ないと思っていた。
と、ここまで読んで「うおー」とか「うふふ」となっている人、あなたはあのチェーン居酒屋で呑んだことがある人ですね。

 そう、関西にはない。なかったのです。
 調べてみたら東京、神奈川、そして、昨年、関西にキター!
 ということで、年末、相方である斎藤さんと「十三店」へ行ってきた。
 前回の「はなび」の後にである。

 

 

 

 

 近年、関東にちょいちょいと行く機会のある私はテンションがあがっていたのだが、斎藤さんは知らない。反応を知りたいというのも内心あった。
 食べたいアテも先に選んでもらった。テーブルのメニュー表をみて斎藤さんは即決した。
「厚揚げ納豆!」
 やはり食べ物の好みが合うなあ、と思いながらも、はた、と気付いた。
 納豆……。関西人にはどれだけウケるメニューなのだろう。
 関東の呑み屋のメニューには納豆が多いと感じる。
 マグロ納豆。納豆オムレツ。などなど、ほかにも。でも関西にはあまりない。お好きですか。

 続いて、私も1品選んだ。
「塩チーズ」
 この店で一番好きなのだ。
 本気なのかギャグなのか、コスパがいいのか、なにもかもがわからない。
 ありがとう大阪でもこのメニューを出してくれて。

 

 

 

 

 全てのメニューに斎藤さんはツッコむどころか感心をしていた。
「安いですねえ……」
 そう安い。そして、愛想がいい。元気が良くて接客も丁寧。え? それって晩杯屋?!

 とても失礼なことを書いているのは承知で続ける。
 関東で同店に訪れた際、あまりに衝撃の出来事だらけだったのだ。
 詳しい店名などは営業妨害となるので避けたい。でもぼんやりとでも書きたい。
 某店では閉店前ラストオーダーの際にカウントダウンをされた。
「あと何分、何秒、5・4・3・2・1。はい」
 ホッピーの中身のおかわりを人数分ジョッキにまとめて入れて出された。
「お前ら勝手に分けて呑め」と言われている気がした。

 別の店では従業員同士の仁義なき戦いに遭遇した。
 中村あゆみ的なハスキィボイスの店員が温水洋一的なおじさん店員をずっと怒鳴りつけていた。
「私、●●(メニュー名)作るから、そっちで出来る簡単なやつ作って。急いで! てゆーか覚えて!」
 泣きそうな顔でおろおろしているおじさんにお姐さんは追い打ちをかけるように冷たく言った。
「はい。早く覚えましょーー!!!」
 おっちゃんの心と私の心に冷たい風が吹いた。酒の味は、苦かった。

 そんな経験をしてきたからだろうか。
 大阪の晩杯屋の接客態度は恐ろしく素晴らしく感じられてならなかった。
 最強スマイルで「本日のおすすめ」を薦めてくれた。
 帰りには「お気をつけて!」「また来て下さいね!」と見送ってくれた。
 まさに「ここは天国晩杯屋」、三音英次の『釜ヶ崎人情』のメロディーで歌いたい。
 やはり大阪だから愛想よくノリよくを意識しているのだろうか。
 それとも大衆酒場激戦区な十三の地に建てた一軒目故に「がんばって」いるのだろうか。
 わからない。わからないけれど気分は悪くない。

 実は大阪にはこのような激安立ち呑みチェーンがもうひとつある。
 近年大流行の「立ち呑み 庶民」だ。京都から始まり大阪に急激に増殖中。
 2年前にこのウェブマガジンの編集長である廣岡氏が来阪時には大阪駅前第2ビルにある店舗にお連れした。

 私的には「ネタ」のつもりだったのだが、いたくお気に召していただき、驚いた。
 その後ことあるごとに「庶民、いいですよね」とおっしゃられる。
 私が晩杯屋に興味があるのと同様、東と西の「ないものねだり」なのだろうか。
 それともやはりネーミングなのだろうか。庶民。貴族じゃない。高い訳がない。

 

 

 私と斎藤さんはこの酒場梯子ツアーを始めたばかりの頃、環状線「京橋」駅にある同店に行ったのだが、会計の際に金額に戸惑った。
 冷奴ときゅうりの漬物で瓶ビール1本、値段は忘れたのだが、思わず2人で顔を見合わせた。
「ん?」「(合ってる??)」

 自己申告することにした。私たちはがらっぱちのようで実は素直で正直なのだ。
 店の人におそるおそる「あの……」「間違っているんじゃ……」
 カウンターの向こうから大笑いされた。「合うてるよ! また来てや!」
 恐るべし庶民。私の頭の中にはミュージカル「レ・ミゼラブル」の「民衆の歌」が流れた。
「戦う者の歌が聴こえるか」そうだ、庶民は日々価格と戦っているのだ。京橋、万歳。

 その後、別の友人と共に晩杯屋十三店を訪れた。
 相変わらずとてつもなく愛想がよかった。
 漫画『じゃりン子チエ』に出てくる猫のアントニオJrとお揃いのスカーフを首に巻いたおっちゃんらが赤い顔でげらげら笑いながらカウンター越しの店員のお姉さんに言っていた。
「血ぃ吸うたろか」
 御存じ、吉本新喜劇の〝寛平ちゃん〟こと間寛平師匠のギャグである。
 軽々しく「ちゃん」なんて言っているけれど現役職は「新喜劇ゼネラルマネージャー」、ぜんぜん庶民じゃない(笑)

 庶民vsバンパイヤ。人間対モンスター。
 この先、関西の地で仁義なき戦いが展開されるのか。
 やはり庶民という関西人の心をくすぐりすぎる名の店が勝つのか。
 納豆パワーで血ぃ吸うたモンスターが勝つのか。
 いや、呑んべえとしては梯子するのが平和的共存か。
 両店共に最近の物価高の影響はどうなのか。
 いろんなことに興味は尽きない。

 どちらも特段「美味しい」かと訊かれたらわからないし、めちゃくちゃこだわりがあってめちゃくちゃ清潔で素晴らしいかと問われるとぜんぜんそんなことはない。
 でも、ヘンテコな気合いとかはなく、ヘンテコな気負いとかもなく、誰でもふらっと入れて、気取らない酒とアテを気取らない値段で楽しめるこれらのチェーン大衆酒場って、「ありだよなあ」「素敵やなあ」と思ったりする。
 十三に職場のある学生時代の後輩は言う。
「晩杯屋って駄菓子屋感覚で好きなおかず食えるからいいっすよね。
 僕あんまり酒呑まんけど食いたいから色々選べて嬉しいんですよー」なるほどなあ。

 駄菓子屋感覚といえば、大阪人の私としては是非「日高屋」にも関西出店をご検討願いたいところである。
 熱烈中華食堂日高屋。これも関西にはないため初めて行った時は驚いた。

 

 

 関東の友人たちは口を揃えて言う。
「日高屋ぁー?! 餃子の王将の方が絶対いいじゃん」
 王将ぉー?! 何度言い返したかわからない。うん、確かに餃子は王将の方が美味しいけども。

 ちゃうねん。王将は定食屋でファミレスやん? 日高屋はカフェやん。
 というと「わからない。カフェの意味もわからないし何もかもわからない」と返ってくる。
 だって皆カフェ感覚で利用してない?

 

 

 ふらっと入ってコーヒー一杯飲む感じで、一人でも何人ででもさくっと入って呑んだり食事したりしてるよね?
 たまにおばあちゃんたちの女子会みかけるよね?
 昼から皆でジョッキ傾けてたりするよね? シメは「野菜たっぷりタンメン」だよね?

 私、あれが、ほんまに「ええなあ」って思っていて、ああいうの、ああいう場所、関西にはないなあ、ってしみじみしてしまう。
 でも関西にあったら厚かましいお客が何時間も粘るんかもしれへんなあ。
「味付けメンマとビールちょーだい! そんだけでええわ」
 しょうもないことを考えだすと止まらない。
 駄菓子屋。カフェ。食堂。ファミレス。奥深きチェーン大衆酒場たちに、いや、たちで、乾杯したい。

 日高屋ではないが、私と斎藤さんは昨年末に「カフェ感覚」の中華立ち呑み屋を見つけた。
 大阪は環状線「天満」駅周辺の新店だ。
 午前中から集合し、以前にもご紹介した謎メニュー〝エチオピア〟でお馴染み「大衆酒場 但馬屋」でおでんを食べた後にふらふらと歩いていたら目に留まり、入ることにした。カフェ感覚で花餃子と大根餅をいただいた。

 

 

 せっかくのピンクと黄緑の花餃子なのに、「はんぶんこ」すべく、無理矢理箸で割ったから映えも何も台無しになった。
 やっぱ、やっぱり、これ、大人の駄菓子屋なのかなあ。

 そんな訳で、ご挨拶が遅くなり、すみません。
 今年も私たちの酒場梯子旅は続きます。
 なんて、この原稿を書いたのが年明けだったのでこんなシメで終わろうとしていた。
 ちょっと時期はずれたけれど、ちょうとアップのタイミングが「新年度」ということで、やっぱりこのご挨拶にさせて下さい。2023、春!
 新生活で環境が変わる人も変わらないままの人もホッと一息、「カフェ感覚」で乾杯しましょう。

 実は私と彼女の中では通常ワードな「酒言葉」は「カフェ感覚」のほかにもある。
「給水所」「ガソリンを入れる」「ちょっと喉を潤してから」
 これらもほかの人に使うと「ちょっと……」と失笑されることが多いなあ。

 どうぞ我らがカフェ巡りかつ給水所巡りにお付き合い下さい。
 いや、ちゃうな。オアシスだ。庶民のオアシス。
 都会の中の、モンスターたちと出会いながら癒しの場所を探す旅。
 気軽な一杯は旅の途中の心の栄養でガソリンです。

 そうそう、大阪には「晩杯屋」にそっくりの「乾杯屋」っていう謎チェーンもあるよ!
 


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