始まりは、ヒガシマルのうどんスープ。
わたしたちは月に一度(か二度)会って呑みに行く際、お互いにお土産というか差し入れを渡す。
値の張るものはない。
例えばガチャ(カプセルトイ)だったりするし。
単純に「これおもしろい」「これ共有したい」の気持ちが重なっている。
ある時期はお出汁(だし)と味噌だった。
きっかけは何からだったか忘れてしまったが、「ヒガシマルのうどんスープ」ブームが到来。
ご存じだろうか、お湯を注ぐだけで簡単に、関西風味のやさしいおいしいお出汁のうどんスープが出来上がるあいつを。
ヒガシマル醤油が1964年に発売したヒット商品である。
うどんだけじゃなく、鍋物、おでん、漬物だってすぐに作れるこの優れものを2人ともが愛用(愛飲?)していることがわかり、盛り上がった。
公式レシピブックなるミニ冊子をGETしたので斎藤さんにあげたところ、次に会った際に同商品のキャラクターが描かれたクリアファイルをくれた。
なので、斎藤さんの住む土地には売っていないというちゃんぽんスープをあげた。
という謎のブームが結構続いた。
その前後には、お出汁ではなく、味噌をもらった。
テレビ東京系列の「お取り寄せ」をテーマとしたドラマでも取り上げられたらしい愛媛の麦みそ。甘みがあっておいしかった。
自称「中年」(わたし)と自称「初老」(斎藤さん)の「小学生的プレゼント交換」は、きらきらした品だけでなく、お出汁や味噌。
こういったものが胃にも心にも沁みるお年頃。
思えば、酒場でわたしたちがつい頼みがちなアテである「おでん」も出汁が決め手だ。
ただ炊くだけ。でもだからこそ下ごしらえや、入れる順番、具材ごとに合うお世話が大切。お出汁の中でひたすら「育てる」。
シンプルだからこそ、たぶん奥が深い。
作り手のかけた時間と手間と(たぶん)気持ちまで滲んでいる。
ということを感じるようになったのも、イケイケのお年頃じゃなくなったからか。
昨年末(末でもない。11月)、とあるフェスに2人で行った。
「よ~いドン! フェス」
関西テレビの朝の情報バラエティ番組の17年目(昨年時)のイベントで、テレビ局のある扇町公園にはたくさんの飲食&物販ブースが出店していた。
番組の名物コーナー、街で見かけたユニークな人を「人間国宝さん」として「認定」するコーナーとのコラボでもある。番組に出演した国宝さんたちによるブースなのだ。
仮設ステージでは番組出演者との「乾杯タイム」や、芸人さんたちの漫才ステージなども行われる。
ということで、ミーハー気分で行ったのだが、食べたいものは特になかった。
乾杯イベントにはイベントスポンサーであるサントリーのブースでジャスミン茶ハイ缶を買って参加をしたが、「水みたいやなあ」と言い合った。
物足りないわたしたちはイベントの合間に、近くの天満・但馬屋へ。
「やっぱり店で座って呑みたいですよね」
「そうそう、そういうお年頃(笑)」
定番の「だし巻き」を頼んだのだが、ひさしぶりやったから?
それともやっぱり屋内で座って呑んだから?
なんともお出汁が効いていた気がした。
このところ、呑みの場では今までに増してどうでもいい会話しかせず、目の前の酒やアテをおざなりにしがちな我々だが、思わず、
「前こんなんでしたっけ?」「ふわふわすぎる!」
(二人して)「おいしー!!」
前はもっと「業務スーパーで買ったみたいなやつ」だった気がする。気のせいかな。
お出汁の効いた、ふわふわの、定番の一品が、とても沁みた。
家でヒガシマルで作っただし巻きもいつもおいしい。
でも、家でもどこでも食べられる一品でも、誰かの手によって作られ、こうして食べるのも、おいしいよなあ、嬉しいなあ。
食べ物も人間も、最終最後はお出汁なのかな、なんて、最近思う。
「育てる」。食べ物も、人と人との関係も。
お出汁みたいな人間になりたい、なんて。
でも、我々はまだ、お出汁どころか、めっちゃ濃い味の何かなのかも。
それもまたおもろいねんけど。
出来ればお出汁。最終的には、ヒガシマルもええが、昆布や鰹節でしっかりじっくり引いたお出汁に。憧れやなあ。
お店でごはんを食べたあとやお酒を呑んだあと、お支払いの際「ごちそうさまでした」と言うことは「当たり前」ではないらしい。
先日SNSで見てびっくりした。わたしたちはぜったい言う。うるさいくらいに。
ふわふわのだし巻きを食べた際、支払いをしながら斎藤さんは高らかに言った。
「だし巻き、めっちゃ美味しかったです」
会計をしてくれたヤンチャそうな兄ちゃんは満面の笑みで、「ほんまですか! ありがとうございます!」
だからわたしも便乗して言った。「ほんまに、ふわふわ!」
でもね、兄ちゃんが続けて言った言葉はこうだった。
「僕、作ってないんですけどね(笑)」
こういうときの、斎藤さんはいい。
「シェフによろしくお伝え下さいー!」
「伝えとくわ(笑)」
こういうのが楽しくて、わたしたちは酒場に通う。
いろんなことは変わってゆく。
でも、わたしたちは変わらずちょくちょく呑んでいる。
相変わらずしょうもない話をし、
時に「あかんね、アルコールは人間をダメにするね」
(お馴染み「酒の穴」で隣り合ったお客のジイサン)と言う人たちとも出会いながら。
皆、皆、国宝さん、チャンピオン。育て、育てられ、お出汁、しみしみ。
前回のこの連載から今回の間に、また庄内は「肉ふじ」にも行けた。(第21回参照)。
肉屋の片隅で呑めるこの店、アルバイトらしき兄ちゃんは愛想がないし、ご店主もべたべたに愛想を振りまくタイプではない。でも、頼んだ皿を見たらコロッケの上には……。
受け取った! お店の方の気持ち! 確かにとても!
ありがとうシェフ。すべての酒場の、いや、いろんなすべての国宝さんたち。