24. お出汁のように 酒場とハートと国宝さん


 始まりは、ヒガシマルのうどんスープ。

 わたしたちは月に一度(か二度)会って呑みに行く際、お互いにお土産というか差し入れを渡す。
 値の張るものはない。
 例えばガチャ(カプセルトイ)だったりするし。
 単純に「これおもしろい」「これ共有したい」の気持ちが重なっている。

 ある時期はお出汁(だし)と味噌だった。
 きっかけは何からだったか忘れてしまったが、「ヒガシマルのうどんスープ」ブームが到来。
 ご存じだろうか、お湯を注ぐだけで簡単に、関西風味のやさしいおいしいお出汁のうどんスープが出来上がるあいつを。
 ヒガシマル醤油が1964年に発売したヒット商品である。
 うどんだけじゃなく、鍋物、おでん、漬物だってすぐに作れるこの優れものを2人ともが愛用(愛飲?)していることがわかり、盛り上がった。
 公式レシピブックなるミニ冊子をGETしたので斎藤さんにあげたところ、次に会った際に同商品のキャラクターが描かれたクリアファイルをくれた。
 なので、斎藤さんの住む土地には売っていないというちゃんぽんスープをあげた。
 という謎のブームが結構続いた。
 その前後には、お出汁ではなく、味噌をもらった。
 テレビ東京系列の「お取り寄せ」をテーマとしたドラマでも取り上げられたらしい愛媛の麦みそ。甘みがあっておいしかった。
 自称「中年」(わたし)と自称「初老」(斎藤さん)の「小学生的プレゼント交換」は、きらきらした品だけでなく、お出汁や味噌。
 こういったものが胃にも心にも沁みるお年頃。

 

 

 

 

 

 思えば、酒場でわたしたちがつい頼みがちなアテである「おでん」も出汁が決め手だ。
 ただ炊くだけ。でもだからこそ下ごしらえや、入れる順番、具材ごとに合うお世話が大切。お出汁の中でひたすら「育てる」。
 シンプルだからこそ、たぶん奥が深い。
 作り手のかけた時間と手間と(たぶん)気持ちまで滲んでいる。
 ということを感じるようになったのも、イケイケのお年頃じゃなくなったからか。

 昨年末(末でもない。11月)、とあるフェスに2人で行った。
「よ~いドン! フェス」
 関西テレビの朝の情報バラエティ番組の17年目(昨年時)のイベントで、テレビ局のある扇町公園にはたくさんの飲食&物販ブースが出店していた。
 番組の名物コーナー、街で見かけたユニークな人を「人間国宝さん」として「認定」するコーナーとのコラボでもある。番組に出演した国宝さんたちによるブースなのだ。
 仮設ステージでは番組出演者との「乾杯タイム」や、芸人さんたちの漫才ステージなども行われる。
 ということで、ミーハー気分で行ったのだが、食べたいものは特になかった。
 乾杯イベントにはイベントスポンサーであるサントリーのブースでジャスミン茶ハイ缶を買って参加をしたが、「水みたいやなあ」と言い合った。

 物足りないわたしたちはイベントの合間に、近くの天満・但馬屋へ。
「やっぱり店で座って呑みたいですよね」
「そうそう、そういうお年頃(笑)」
 定番の「だし巻き」を頼んだのだが、ひさしぶりやったから?
 それともやっぱり屋内で座って呑んだから?
 なんともお出汁が効いていた気がした。
 このところ、呑みの場では今までに増してどうでもいい会話しかせず、目の前の酒やアテをおざなりにしがちな我々だが、思わず、
「前こんなんでしたっけ?」「ふわふわすぎる!」
(二人して)「おいしー!!」
 前はもっと「業務スーパーで買ったみたいなやつ」だった気がする。気のせいかな。
 お出汁の効いた、ふわふわの、定番の一品が、とても沁みた。
 家でヒガシマルで作っただし巻きもいつもおいしい。
 でも、家でもどこでも食べられる一品でも、誰かの手によって作られ、こうして食べるのも、おいしいよなあ、嬉しいなあ。

 食べ物も人間も、最終最後はお出汁なのかな、なんて、最近思う。
「育てる」。食べ物も、人と人との関係も。
 お出汁みたいな人間になりたい、なんて。
 でも、我々はまだ、お出汁どころか、めっちゃ濃い味の何かなのかも。
 それもまたおもろいねんけど。
 出来ればお出汁。最終的には、ヒガシマルもええが、昆布や鰹節でしっかりじっくり引いたお出汁に。憧れやなあ。

 お店でごはんを食べたあとやお酒を呑んだあと、お支払いの際「ごちそうさまでした」と言うことは「当たり前」ではないらしい。
 先日SNSで見てびっくりした。わたしたちはぜったい言う。うるさいくらいに。
 ふわふわのだし巻きを食べた際、支払いをしながら斎藤さんは高らかに言った。
「だし巻き、めっちゃ美味しかったです」
 会計をしてくれたヤンチャそうな兄ちゃんは満面の笑みで、「ほんまですか! ありがとうございます!」
 だからわたしも便乗して言った。「ほんまに、ふわふわ!」
 でもね、兄ちゃんが続けて言った言葉はこうだった。
「僕、作ってないんですけどね(笑)」
 こういうときの、斎藤さんはいい。
「シェフによろしくお伝え下さいー!」
「伝えとくわ(笑)」
 こういうのが楽しくて、わたしたちは酒場に通う。

 いろんなことは変わってゆく。
 でも、わたしたちは変わらずちょくちょく呑んでいる。
 相変わらずしょうもない話をし、
 時に「あかんね、アルコールは人間をダメにするね」
(お馴染み「酒の穴」で隣り合ったお客のジイサン)と言う人たちとも出会いながら。
 皆、皆、国宝さん、チャンピオン。育て、育てられ、お出汁、しみしみ。

 前回のこの連載から今回の間に、また庄内は「肉ふじ」にも行けた。(第21回参照)。
 肉屋の片隅で呑めるこの店、アルバイトらしき兄ちゃんは愛想がないし、ご店主もべたべたに愛想を振りまくタイプではない。でも、頼んだ皿を見たらコロッケの上には……。

 

 

 受け取った! お店の方の気持ち! 確かにとても!

 ありがとうシェフ。すべての酒場の、いや、いろんなすべての国宝さんたち。


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