とある大衆食堂。
そこは私たちの秘密の食堂。
ご主人は〝山崎先生〟。
吉田戦車描く「伝染るんです。」に登場するキャラクターに似ているので勝手に名付けた。
いつも厨房前のカウンターに腰を曲げて寄っかかりながらタバコを吹かして遠い目をしている。が、ひとたび注文があると「はいはいはいはい」と慌ただしく仕事モードになり背中を曲げたままサササッと駆けていく。
この食堂で山崎先生が出してくれる「肉天」が最高に美味い。
味付けした豚肉をカラッと揚げた天ぷらが付け合わせのキャベツと共に無造作にゴロゴロ。日によって大きさも個数も違う。
すべて「おかあちゃん(奥さん)に任せてるからなあー」。
写真で見ていただくとそない美味しさが伝わらないかもしれない。残念過ぎる。
そう、なんてことない肉の天ぷらなのだ。けれどこれがビールに合うといったら!
あー、毎日食べたい。
家で真似して作ってみても全然辿り着かない。行く度に厨房奥を見つめている。「教えて! おかあちゃん!」
ちなみに昼間カレーライスを頼むと肉天の肉と同じ大きさと味付けの肉が数個入っていた。
ということで本日は〝アテ〟のお話をしよう。
相方・斎藤さんとの立ち呑み・大衆酒場を巡る月一回の一日梯子酒ツアー、気付けばもう1年ちょっと過ぎている通称“心はだかんぼツアー”。
1年を振り返ってしみじみ思う。「しっかし、いろんなもん食べてきたなー!」
実は私は呑みだすとあまり食べる方ではない。斎藤さんも普段はグルメなのだが呑む時はそんなに食べない。そう、私たちのお約束は「1本と1品ずつを半分こ」。
けれどホンマにいろんな美味しいものをいただいてきた。梯子したいため、お腹を減らすべくあちこち思い付きで行ったりしながら。
あれやこれやをあっちゃこっちゃで。
◆だんじりとチーかま
「西成の前に岸和田行きましょう」
お互い地元にもだんじりがある。けど本場は初だった。
昼に集合すると駅前はもう人だかりができている。駅の下のキヨスク的なところもスタンバイオッケー。
ウォータークーラー? 水槽? にいっぱい缶ビールが冷えていて、売り子さんも増員されていた。
斎藤さんはなんのてらいもなくお姉さんに「ビールとチーかま!」
お姉さんとお兄さんはキヨスクの棚やら商品を吊っている場所を必死で探してくれた。笹かまぼこ、違う。柿ピー、違う。私「ないんちゃうん?」……あった!
お姉さんは渡しながら「チーかま美味しいよね」とニコニコ笑ってくれた。
晴天の下、正午から齧ったチーかまと缶ビールは格別やった!
二人してよぉ騒いだ。「あー、かっこええー、抱かれたいー」
1時間くらいしか居なかったけれど缶ビール2本と紙コップビール1杯。祭り気分MAX。チーかまって楽しさを倍増させる魔法のスティックやなあ(違う!)
その後、西成で呑んだ際おっちゃんらに「さっき、だんじり行ってーん」言うたら、おっちゃんらの食いつきも半端なく大いに話が弾んだというオチもある。
◆タピオカ、のち、白菜漬
「BIGBANG好きやし、あ、今流行りの韓国コスメとか見に行こ!」
環状線の鶴橋駅? 桃谷駅? どっち? どこ? 毎度おなじみ無計画だからだいぶ迷った。さらにさまよったのは我々にとって大事なビールのありかだ! ナメていた! お祭りの屋台みたいに露店が出てビールが売っていると思い込んでいた。
なんでや。いまだにわからない。コリアンタウンは真面目なのか。そんなものは見当たらなかった。
仕方ないからタピオカを飲んだ。
今流行りのタピオカ。斎藤さん人生初タピオカ。私人生2回目タピオカ。
TWICEをBGMに飲んだタピオカは衝撃的な程甘くかなりお腹にたまった。
「世の中の女子はこれダイエットでご飯の代わりにしてるんやわー」
絶対違う。が、その後、またまたホームの西成、行きつけの「酒の穴」に救われた!
座ってすぐどちらともなく注文したのが白菜漬。なんのへんてつもない白菜漬。味の素めっちゃ振りかけてあった。
しかし、沁みた。
あれ以来、毎回定番のアテに白菜が堂々ランクイン。
毎回「沁みるわー」と言いながらつついている。
「やっぱりわしらはタピオカやなくて白菜やあ」
◆バディなどて焼き
どて焼き。
牛すじ肉を串うちして味噌などで煮込んだトロトロの一品。関西ではお馴染みなのだが全国的にはどうなのだろうか? このどて焼きを名物とする素敵な店に出会えたこともあった。
きっかけは私のミーハー心である。大好きなハードボイルドドラマのロケ地のひとつだったのだ。
大阪を舞台に、北村一輝演じるイケイケヤクザと濱田岳演じる相棒が、大阪弁で丁々発止の掛け合いをするバディもの。
大阪の美味いもん屋が次々に登場するドラマとしてもお馴染みなのだが、私がずっと気になっていたのが、阪急梅田から一駅行った阪急中津駅の階段下すぐにある、食堂「いこい」。
行きたい! だって私たちも〝バディ〟!
夜の開店5分前に着き暖簾を覗いたらもう既に呑んでいた常連さんが笑ってくれた。
「もう入ってええって言うてるで(笑)」
ドラマの二人とほぼ同じ席に偶然座れただけでテンション上がった!
目的たるドテ焼きは3本からの注文らしい。
「ほな3本かなぁ」
注文しようとするとまたまた常連さんがさらっと言うてくれた。
「4本にしたらええやん二人やねんから」
わー! 私たちの「半分こルール」! まさか知らんおっちゃんに薦めてもらうなんて! 思わず口に出た。「美味しそう!」またおっちゃんがツッコミを入れてきた。
「美味しそうやないねん。美味しいねん(笑)」
かくして二人で半分こ。
「今日はべっぴんさんが二人居てるでぇ」
なんて言われながら食べたドテ焼きとおでんはちょっとしみじみ忘れられない。ドラマが好きなのもあるけれど。
実は私は若い頃この地中津の広告代理店に居たのである。
お恥ずかしながら忙殺されて結構心が荒んでいた。お酒なんて呑むこともなかった。
そんな昔話を珍しくすると、なんと! 斎藤さんもこの地にちょっとゆかりがあることが判明。ほんま、縁って不思議やなあ。
……という話は店の中でしていた訳ではないのだけれど、お腹いっぱいでさて出ようとする時、店のおっちゃんがひょいっと言うた。
「がんばれよ!」
◆「美味しさ」ってなんやろな
ポテサラ、ポテトサラダ。瓶ビール1本にポテサラ。部員二人。
きっかけは斎藤さんのひと言。
「大衆食堂で瓶ビール小と、ポテサラと文庫本って、カフェでお茶感覚ですよね」
この感覚とひと言が好きでおもろく、酒場巡りが始まったきっかけでもある。
かくして開始直後はポテサラばかり。完全にワルノリだが無駄なこだわりはめっちゃあった。
レタスやトマトを付け合わせにしてロースハムなんかも添えられていて……。そんなんおかずになるポテサラは美味しいけどいらない。求めるのは酒のアテたるポテサラを小皿にちょっと、あ、出来たらマカロニも入れんといて。
でもポテサラ部は数か月で廃部。
単純に飽きた。今ではたまに頼むくらい。しかしポテサラ部のこだわりのようなものは今も私たちの中にある。
正直、本当の味にはそないこだわっていないのかもしれないな、と思うのだ。
お店の手作りこだわりポテサラでなくていい。近頃流行の「お客様自身で楽しんでつぶしていただけます」みたいな、すり鉢とすりこぎと茹でじゃがいもとマヨ渡されるんとかそんなんもいいわ、別にいいわ。
なんなら毎度おなじみ「業務スーパー」で買った大袋のポテサラをお皿に移し替えて出してくれてもいい……失礼だがそれくらいの気分でもある。
けど「なんかポテサラでそのお店がわかるような気がしますよねえ」
雰囲気だったりお店の人とのおもろいやりとりだったり。その一品に出会うまでのエピソードだったり。
そんなのが「美味しさ」となりお腹と心に沁み思い出に残っているような気がしている。
そして、もひとつ。なぜか私たちは妙にアテの好みが合う。1本と1品ずつ……で、頼もうと思っていたものがなぜかぴったんこに合うことが少なくない。
せやから気分よぉこんなにアホに1年も続いてるんかなあ。
「住んでる場所が近かったら絶対毎日一緒に呑んでますよね」
ある意味、遠くてよかったなあ(笑)
◆焼きおにぎりと、人情と
数軒目、もうシメの段階に入っていた私たちは瓶ビールと共に「ごはん食べたいなあ」となってしまった。
しかし行きつけの天王寺駅前、あべのQ’s MALL隣「正宗屋」にはご飯メニューがない!
いつもシメに枝豆がお約束の正宗屋には、お米系のシメがひとつもない!
ちょっとほろ酔いな私たち。普段人みしりな私たち。ちょっと悪ノリ。言いたいな。言いにくいな。けど食べたいもん。言うてみよう。あ、あの「おかあちゃん」っぽい人なら大丈夫かな。
「すみませーん! おにぎりってないですか?」
「ごめん。ないねーん」
「えー」「おにぎりー」「おにぎり食べたいー……」
さすが大阪のおかあちゃんは強く、そして優しかった。
「帰りコンビニで買うて帰りぃな(笑)」
しかし残念がりながらも、爆笑する私たちにおかあちゃんはなんと意外なひと言を返してくれた。
「焼きおにぎりなら出来るで。ふたつ。一人前でふたつな」
「食べるー!!」
かくして出てきた、もとい、無理言うて出してもろた焼きおにぎりは、どこからどう見ても「チン」したやつ。おそらく従業員さんの食べる分だったのだろう。
こんなことって、あるんやなあ。優しさにほろり。人情をパクり。
しっかりお腹におさめて嬉しく帰ろうとしたら、忙しくホールを走り回っていたさっきのおかあちゃんが満面の笑顔で言うてくれた。
「焼きおにぎり美味しかったか?」
美味しかったー! また来ますー!!