わたしはすこぶる「やる気」がない。
思い返せば、つねになかったような気がする。
たぶんない。ずっとない。なんもない。いまもない。
記憶のあるところでは、まず幼稚園だ。お遊戯の次は工作と時間割りが決まっていたため、いやだ、家でだらだら過ごしたい、と入園3カ月でやめてしまった。小学校に入学しても仮病を使って週一ペースで休んでいたし、さすがに中学生になったら週一ペースで遅刻をするくらいにとどめておく社会性は身に付けたけれど、受験勉強はしたくないので書類審査だけで合格できる高校を受験した。それが付属校だったため、大学受験もしないまま大学生になったし、ほとんど勉強しないまま4年生になって、もちろん就職活動はしなかった。それで学生時代にアルバイトをしていたところでそのまま仕事をすることにしたものの、いよいよ決まった時間に決まった場所へ通うのがいやになってきたため、いまでは週1日か2日くらいしか働いていない。そしてそれすらも、いやでいやで、やる気がないのだ。
けれど、「ああ、もっとやる気があれば」とか「もっとやる気が必要だ」とか、いままでやる気を求めてきたかというと、違うのである。わたしにとってやる気はずっとないものだったから、「ある」という状態がどういうものか、それがよいものか、いまいちわからないからだ。
けれど、「ある」がわからないくせに、不思議なことにやる気が「ない」状態から「もっとない」状態になった、と思うことはあるので、なんだかへんだ。とりあえず、わたしのやる気は、ゼロをベースに時々マイナスになるイメージ。ということは、ない人はないなりに、やる気の増減があるのであり、ある人はあるなりに……ってあったためしがないので、どうなのかはわからない。けれど想像するに、たくさんやる気がある人は、あるとないとの振れ幅が大きく乱高下するのかもしれず、いや一方で、高位安定の人もいるかもしれない。
やる気とは、つまり「株価のようなもの」なのだろうか。
と、とりあえず、それっぽい仮説を立ててみた。そう、ものは勢いで立てちゃったのだが、あっという間に、違うのである。あの日、わたしはわかってしまったのだ。やる気は「UMA(未確認生物)のようなもの」だったのだ、と。
「ちょっと心配になるくらい、やる気がおきない」
わたしがツイッターでそうつぶやいたのは、2012年9月。
どんな状況だったかはもう覚えていないのだけれど、たぶんなにかの〆切の日だとか、実はもうとっくに〆切は過ぎているとか、でもまだなにひとつ作業に取りかからずにぐだぐだとツイッターを眺めているとか、それでつい誘惑に負けて缶ビールを開けちゃったとか、どうせそういうかんじだろう。
そんなときにそんなツイートをしてわざわざやる気がないアピールをするだなんて、ほんとうにどうしようもない人間だ。でもしたいじゃないか、そういうアピールを。それでなるべく自分の株を下げておいて、あの人だったらしようがないよねってみんなに思われて、なあなあにすませたいじゃないか、物事を。
みんな、やる気不足を感じでいたのか。やる気に興味があったのか。いつもは誰からも反応がないところ珍しく、このときのツイートにはいくつかのリプライがあった。
「こちらのやる気は脱走し、どこかに潜伏してるようです」
「エサ次第だよ。仕事に飛びつくやる気はこのあいだ絶滅危惧種に指定された」
なんということだろう。わたしはその日まで、やる気は内なる場所からふつふつと生まれ、増減するものだと思っていたのだ。けれど、彼らのやる気たちは、脱走したり、潜伏したり、飛びついたり。やたらと元気がよく、まるで生きているかのよう。
ネズミ、猫、やる気――。もしかして、やる気って、こう並べてもおかしくないような、実態のある「生き物のようなもの」なのかもしれない。
己の体内から生まれるのではなく、最初はどこかから捕まえてきて、それをじぶんのやる気として、育てたり、増やしたりするものなのかもしれない。
わたしの「やる気観」は、がらがらと崩されたのだった。たしかに、いつか自然に生まれてくるのだろうと思っていたやる気を、わたしが自ら生み出すことはなかったのだし……。動揺していると、
「捕獲率はツチノコ並らしーですよ!」
そう教えてくれたのは、UMA探検家(志望)のKさんだった。「(志望)」というのがたいへん怪しいのだけれど、志望している人間のほうが志望していない人間よりは、UMAのことを知っているような気がする。ツチノコはUMAの代表選手だけれど、捕獲率がツチノコ並らしーというやる気だって、もはやUMAのようなものといってもいいんじゃないか。
こいつぁー、お手あげだ。
けれど、どうだ。わたしは思った。やる気がUMAのようなものならば、もしも万が一、見つけられたら、世紀の大発見である。やる気探しは、もはや探検なのだ。だったら、探してみたいじゃないか。
こうして、やる気のないわたしは、やる気探しの旅に出てみることにしたのだった。……ふう。
次回につづく