にゃおにゃお島へ ――愛媛県・青島(前編)


青島全景(帰路の船上より撮影)

青島全景(帰路の船上より撮影)

 なんとも遠い島、だ。
 愛媛県の長浜港から約13.5キロの沖合に、青島(大洲市)が浮かんでいる。
 島の面積は0.5平方キロほどの小ささで、人口はおよそ15人。
 瀬戸内に浮かぶ島でありながら、なぜかとっても遠い。
 その理由は、渡し船。
 海況が少しでも荒れると、1日2便の定期船はすぐに欠航してしまう。
 しかも、船が出るかどうかは、実際に港へ行って直前になるまでわからない。

 1月の下旬。天気予報では、波の高さは1メートル。決して波が高い日ではない。
 しかし、朝8時前に港へ行ってみると、
 「今日は風が強くてムリ。午後便は14時に判断するから、また来て」
と、船のスタッフはいう。訊いてみると、昨日も一昨日も船は出なかったという。

 これが、辛い……。
 港のある長浜は宿がないために、宿のある松山市から長浜まで列車で1時間以上もかかる。
 その列車の本数も少ないので、今朝、松山駅を発ったのは6時4分だった。
 しかも、長浜は小さな町なので、なかなか時間をつぶせるような場所もない。
 必然的に、松山と長浜を毎回往復しながら、船が出るかどうかを確認しなければならない。

 その日の午後2時。再チャレンジ。
 あれ。港には船のスタッフも誰もいない。いったい船は出るのか、出ないのか。
 付近の海を目視したところでは、決して荒れている海ではないはず――。
 が、よくよく見ると、港には無情にもプレートが掲げられていた。
 欠航――。

長浜港に掲げられる運航状況

長浜港に掲げられる運航状況

 こうして肩を落として、また松山へと戻る。
 それが次の日の朝も繰り返され、ようやく2日目の午後便に後光がさした。
 これまでのプロセスで疲れ切ってはいるが、いざ、青島へ。

 およそ30分ちょっとで、船は青島の港へ滑りこむ。
 出迎えてくれるのは、久々の船の到着を待ちかねた島民……ではなく、島猫だ。
 にゃおにゃおと、船が着くなり、降船客を歓迎してくれる。

青島港に着くと……

青島港に着くと……

 そう、ここは「猫島」として有名になった島。
 住民15人に猫100匹――。
 「猫(の多い)島」は日本各地にあるが、その中でも最強の「猫密度」を誇る、青島。
 もう、港の猫のお出迎えからして、脱力してしまう。
 ゆるい、ゆるすぎる……。

猫がお出迎え

猫がお出迎え

 1月の寒い平日ながら、猫目当ての観光客も10人近く港に降り立った。
 その1人の女性とは、船が欠航つづきだったため、「松山―長浜」間の移動がいつも一緒になるので、話を交わしていた。女性は香港からの1人旅で、猫愛好家。カタコトの英語で訊いてみると、今回の青島は、なんと3度目の挑戦だという。以前、青島を訪れるために2回日本に来たが、いずれも船が欠航だったとのこと。しかも、香川県の黒木島や福岡県の相島など、日本の方々の「猫島」を旅しているというアクティブさ……。

長浜小学校青島分校跡

長浜小学校青島分校跡

 青島は、かつてイワシの大群がやってくる豊かな漁場だったため、江戸時代から人が移り住んだ。
 最盛期には人口800人以上を数えたという。
 時は流れ流れて、今や瀬戸内海は「豊かな海」とは呼ばれなくなってしまった。
 愛媛県の漁獲高は、経済成長と反比例するように、1955年をピークに減少の一途をたどっている。
 やがて青島では、子どもが都会へと出ていき、島には戻ってこなくなった。
 島にあった小学校も、もう40年前に廃校になっている。
 親は高齢となって通院の必要性が出てくると、子どもの住んでいる都会で暮らすようになる。

 結局、飼われていた猫だけは島に残り、ノラ化して繁殖しているというわけだ。
 お気楽に映る猫の楽園島にも、そういった「失われたもの」がひっそりと横たわっている――。

 (後編へつづく)


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