青島の港に到着した定期船。この船には、もう一つの大きな役割がある。
それは、水。
島の飲料水や水道水として使われる水を、この定期船が運んでいる。船員さんに訊くと、毎回だいたい5トンの水を運んでいるという。水は船からホースで青島港の貯水槽に送られて、水道管で各家庭へといきわたる。
今や多くの離島では、「海底送水管」や「海水淡水化装置」が設置されたりしているので、昔ながらに船で水を運ぶ光景は、なかなか貴重だ。
港近くで、島のおばさんに話を訊いてみた。
定期船がしょっちゅう休航になったら、水の心配も出てくるのではないか、と。
「でも、島の人口が減ってるから。そのぶん、昔みたいに水が減らないから、まあ大丈夫」
そっか……。
では、昨今の「猫目当ての観光客」が増えていることについては、どう感じているのだろう。なぜなら、商店も宿もない青島では、観光客が増えても島にお金は落ちない。猫客が増えても島への「直接的なメリット」は特にないはず……。
「まあ、猫好きの人はみんな優しいから。何の悪さもしないでしょ、だから安心だし」
島をぶらぶら歩いてみる。
旅人は、みな思い思いの場所に散って、猫とたわむれている。写真を撮ったり、なでたり、餌やり場で餌をあげたり……。
自分自身は普段、格段に猫が好きなわけでもない。でも、何だろう。この島に来ると、そんな自分でも「にわか猫愛好家」になる。島猫特有の「ゆるさ」というか、のんびりした気質の猫。わらわらと警戒心もなく寄ってくる愛らしさ……。
普段ならば猫の写真を撮るのは、警戒心もあってなかなか上手くはいかない。しかし、この島ではあっさりと撮れてしまう。ついつい面白くなって、ぱしゃぱしゃとシャッターを押す。
帰りの船が出る時間が近づく。
わらわらと港に戻ってきた旅人の表情には、満足感と名残惜しさが交じっているかのよう。先の香港からの旅人も、余韻を引きづっているのか、口数が少ない。
ただひとこと「必ずまた来るよ」と。力強い口調で。その理由を訊いてみると、「日本の猫島はたくさん行ったけど、私の中ではココがベストだから」とのこと。
青島の「猫密度」が、やっぱり魅力的だったようだ。
長浜行きの船に乗り込む。島影が少しずつ遠ざかる。
島のことをあれこれ思う。全国ひいては海外からも観光客が青島を訪れるということは、私を含めて、みんな普段の生活にちょっぴり「生きにくさ」を抱えているんじゃないかと、思う。
生きにくさ――というのは、きっと目まぐるしい日常の「スピード」に起因している。猫を媒介にして、忙しい毎日のスピードを一時的にでも緩めてくれる、青島。
伊予長浜駅で、香港の旅人と別れた。手を振りながら、「これから、人が多くてビジーな街へ帰るわ」という。でも、その自嘲の言葉には「青島効果」とでもいうような、満ち足りた明るさがあった。