カレー、かく語りき。 ――編集ダイアリー2020年5月23日


 今日の夕飯は、わたしの希望で「和風カレー」にしてもらった。
 要するに蕎麦屋の「だしつゆ」入りのカレーライスである。
 食後、わたしは満足そうな表情をしていたのだろう。
「ほんとうにカレー好きだよね」半ば呆れ顔でそう言われてしまった。

 確かに、わたしは毎日でもカレーが食べられる。
 朝昼晩、それ以外も。
 どうしてそんなにカレーが好きなのかと聞かれても答えようがないけれど、カレーが大好きである。

「カレーライスは飲み物」と、今は亡きタレントのウガンダ氏が歴史的名言を残している。
 だが、わたしはウガンダ氏が先の言葉を残す前からそんなこと知っていた。
 小学3年生の時、すでに体重が64キロあったわたしは、すでにそれを体で理解していたのだ。

 ときどき、ハンバーグやトンカツ、ミートソーススパゲッティたちとも浮気も重ねたが、でも子どもの頃のいちばんの好物は、やっぱりカレーだった。
 母はいたるところに雑誌の切り抜きを貼るほど、西城秀樹の大ファンだった。
 テレビCMで歌う秀樹の声が、母の耳にうららかに響いたに違いないその日の夕げは、決まって「バーモントカレー」だったのである。作っていたのは祖母だったけれど。

 不思議なもので、人生のセンチメンタルな思い出には必ずカレーが付きまとう。

 風邪をこじらせて扁桃腺を腫らせた幼い日の快気祝いの、カレー。
 家族と初めてキャンプに行った夏の山中湖畔の薄暗くて賑やかな夕げの、カレー。
 バキュームカーの作業をずっと眺めていたら、清掃のおじさんに「今日はこのカレーにするか?」と聞かれて、嫌な気分で家に帰った日の食卓に上がった、カレー。
 祖母が暮らした思い出の街をいっしょに歩いた後に二人で食べた「ナイアガラ」の、カレー。
 家族と離散し、ひとり暮らしに似つかわしくない大きなアルミの寸胴を買い、初めて作った、カレー。
 会社に退職届を出して、さまざまな思い出を紡ぎながら最後まで通ったエチオピアのカウンターで味わった、カレー。
 御茶ノ水「まいまいつぶろ」の跡地にできた猫の額ほどのカレー屋で、優しく、厳しかった亡きマスターを思い出しながら食べた、カレー。

 なんともカレーまみれの人生。
 この文章を書きながら自分でも自分でもびっくりするほどのカレーストーリーが出てきたと思った瞬間、面白おかしく書くつもりが、そんな気持ちではなくなってしまった……。

 残りのカレーをアテに、ビールでも飲もうか。
 わたしの人生にはカレーが欠かせないことだけは分かったから。


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