飴の効用 ――編集ダイアリ―2020年7月14日


 まめに水分を取ることがコロナウイルス対策にはよいと、バスの仕事を終え、ハンドルを握りながら聴いていた深夜ラジオのDJが言っていた。

 なんでも、取り込んでしまったウイルスは、水を飲むことで気管から肺に流れず、そのまま食堂を通って胃に流れて胃が滅菌してくれるそうだ。これはいいことを聞いた。

 翌朝、目が覚めると真っ先に母親に電話をした。
 わたしの実の母と父は熟年離婚で、父はわたしたち夫婦と同居しているが、母は車で20分くらいの場所で一人、悠々自適の生活を送っている。
 近所には仲のよい人たちも多く、何かあれば連絡してくれるので今のところ不安はあまりない。

 電話に出た母は真っ先に、
「いやよ、なにかあったの?」と不安げな声を発した。
 なんだよ、その反応は……と思いながら、
「なにもないよ」
というと、一気に屈託のない声色に変わり、
「突然電話してくるから、なにかあったのかと思ったわよ、やめてよ」
とのたまう。

 昨夜ラジオで聴いたことを話すと、ふんふんいいながら聞いているかと思いきや、
「あなた飴がいいんだって!」と切り出し始めた。
「飴をなめていると、唾液が出るでしょ。それが殺菌作用もあるし、水と同じようにウイルスを胃に流してくれるんだってよ。それであんた元気にしてるの? お母さんはねえ、これから散歩に行くのよ、Yさんが太っちゃったっていうから。もうしょうがないんだから、ハハハ! それでね……」

 気がつけば母のペースになっていた。
 コロナウイルス禍の感染対策は意外にしっかりやっていることを知って安心する。
 やっぱりお袋はこんな時も変わらず元気だなあと、わたしの方からそそくさと電話を切った。

 ふと気づけば、もう5か月以上も会っていない……でもいつもの調子の声が聞けたので気を取り直した。
 帰り道に飴を買って帰ろう。

 

 


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