5月に入り、ようやく初夏の雰囲気が訪れた。
花粉症もほとんど収束。窓をさらに全開にして、心地よい風を浴びながらこの原稿を書いている。
おかげさまで去る5月1日をもって旅と思索社も設立満6年を迎え、7年目に突入した。
新型コロナウイルスの世界的流行という予想外の出来事が起きて公私ともに思い悩むことも少なくはない。
ただ、下を向くだけではだめだし、かといって上を向くだけでも何も見つからない。
今できることは、きちんと目の前を出来事を見続け、考え、行動することなのだと思う。
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4月から、考えるところがあって自分自身の連載を増やしている。
理由はいろいろあるが、やはり旅と思索社の視点というものをより前面に押し出す必要性を感じたことが大きい。
ひとり出版社の必然性はなんなのだろうかと考えていくと、もっと作り手のパーソナリティを出すべきではないかというところに行きついた。
それがひいては旅と思索社の名前を冠した作品が長く生き残る術なのだと信じて。
(わたしはずっとこれまで、本づくりの世界では裏方は表に出てはいけないと教えられてきたし、いまでもその呪縛から抜け出せないでいる)
そのようなわけで、コンテンツをやむを得ず自分が書いて増やしているわけではないことをご理解いただきたい。
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それを裏付けるかのように、5月からあらたな連載が始まる。
馬場紀衣(いおり)さんの「穴と角」だ。
馬場さんとの出会いは突然だ。問い合わせフォームから、「ぜひライターに加えてほしい」と連絡がきたのだ。
プロフィールを見ると実に頼もしい。「和楽」でも原稿を書き続けている現役ライターだ。
預かった原稿は、身近で、ふだんは気づかず通り過ぎてしまう空間や場所が持つ「美」を探し求める彼女の視点が、道草的人生を標榜する「Tabistory」のテーマと思いのほかうまくマッチしていて、文体も女性ならではのしなやかさと洞察にあふれた文章だった。
連載最初の美の探求は「階段」だ。
彼女が見つける「用の美」とはどんなものだろうか。今後に期待したい。
「穴と角 001 会社員のような階段、絵画のような手すり」
昨年6月から始まった、momoこと中村桃子さんと斎藤さんの、気取らない女二人が飲み歩きながら大阪の下町の人間模様を描き出す「心はだか、ぴったんこ~女ふたり、立ち呑みの旅~」もそうだが、旅と思索社は表向きにもその裏側でも、創業以来、いつも女性パワーに助けられてきた。これからもそうだろう。感謝。
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コロナウイルスは人間にとって脅威だ。だが、同時にわたしたちはどう生きるべきか? ということも問いかけた。
わたしにとって「Tabistory.jp」の未来を考えるのは、それに対して答えを探すような取り組みでもある。
なんだか真面目くさい文章になってしまったが、このサイトに自分の思いをたくさん注いでいきたい、と今は強く思うのみである。
(廣岡一昭)
<お知らせ>
今後、連載情報は「Tabistoryだより」として定期的に掲載します。