突然ですがクイズです。
原稿用紙の中央にある蝶ネクタイのような形の印を何という?
これは先日放送された高校生クイズ2024に出題された問題なのですが、皆さん判りますか?
僕はこの問題は答えられなかったけど、画面の中の高校生は平然と正解していた。
魚尾(ぎょび)というらしいあのマーク。調べると、原稿用紙の真ん中の文字を書き込めない謎の行の、こんな「【 」ようなマーク。これが魚尾で、古くから和本の折り目に付けられていた飾りを模したものらしい。確かにこのマークがあれば折る際の目安にもなろうか。
そもそも原稿用紙を二つ折りにして綴じたものが書物であった時代を伺い知ることのできる“証人”のようなマークがこの魚尾。言うまでもなく原稿用紙は縦書き仕様だが、ときに日本語は、昔と比べて縦書きよりも横書きで利用されることが多くなっただろうか。
いま書いているこの文章だって横書きだ。どうしてもパソコンやWebの世界は横書きが圧倒的に多いように思う。ヒトの目は、縦に動かすより横に動かしやすくできていると聞いたこともある。横書き優勢か。でも新聞、雑誌、一般書籍は縦書きだ。マンガの吹き出しだって縦書き。
『情報の世界史』(かざひの文庫)によると、
縦書きと横書き両方を併用しているのは日本語だけです。そのような意味でも、日本語は珍しい言語と言えるでしょう。
ということらしい。
世界の書字を見てみると、欧米は左から右の横書き。アラビア文字、シリア文字、ヘブライ文字は右からの横書き。日本語のように右から縦書きの文字は、漢字、ひらがな、カタカナ、ハングル。そして左から縦書きするのはモンゴル文字。文字は言語、生活、文化にしっかりと根付いており簡単に「世界中の皆さ~ん、明日から左から右の横書きに統一しましょうね~」「は~い」という訳にはいかないはずだ。
魚尾という名詞から随分と話が逸れてしまったが、今回のテーマは “クイズ” だからそんな話に戻ります。
アップダウンクイズ、アタック25、クイズ100人に聞きました、タイムショック、カルトQ等々……。子ども時代にもいろいろなクイズ番組はあったけれど、アメリカ横断ウルトラクイズは別格だった。だってまず何よりスケールがとんでもなくでっかい。
番組が進行するにつれ次々と敗者たちが日本へ強制送還され解答者はふるいにかけられていく。ウルトラクイズの舞台は、後楽園球場の○×クイズを飛び出して成田空港でのジャンケン大会へ。ジャンケンで勝ってようやく出国の飛行機に乗れたかと思いきや、ここが第1チェックポイントの機内ペーパークイズ。ペーパークイズで成績が悪ければ乗って来た飛行機すら降りられずそのまま強制送還。成績優秀者たちがグァムの地を踏んで喜んだのも束の間、今度はビーチで○×どろんこクイズが待ちうける……。
幾多の過酷なチェックポイントでのクイズを乗り越え、敗者たちは罰ゲーム(かなり過酷なものもありました)を受けては強制送還され、アメリカ大陸を横断して最後まで生き残った二人の決勝の舞台は……! ニューヨーク。選ばれし二人は各々のヘリで会場となる摩天楼の屋上をめざす。
さすがウルトラクイズ。ギネスブックに「世界で最も制作費のかかったクイズ番組」として載っただけのことはある。そう、制作費もウルトラだったのだ。
「勝てば天国! 負ければ地獄! 知力体力時の運、早く来い来い木曜日、史上最大第○回、アメリカ横断ウルトラクイズでお会いしましょう~」
と、これが番組終了時の決まり文句。いつも番組はちょうど面白いところで続きはまた次週の木曜日~、ということになるのだった。スタジオで総合司会の高島忠夫と石川牧子アナの掛け合いでこの決まり文句を言われると、ああ、もう終わりか、なんとももの足りないような寂しいような。とにかく早く続きが見たい! それにしても、あの敗者、罰ゲーム受けた後は無事日本に帰れただろうか。スーツケースに「東京直行」と書かれた札を下げて砂漠を歩いていたけど……。などというモヤモヤした気持ちを抱えながら明日の時間割をランドセルに揃えたりしたものだった。
そんなクイズ番組好きのまま大人になったソトノミスト。過ぎ行く月日は次々と番組たちを入れ替えていた。2021年にパネルクイズアタック25(司会者:児玉清→浦川泰幸→谷原章介、アタックチャ~ンス)は終了し、2024年3月に 世界・ふしぎ発見! が38年の歴史に幕を下ろし(最終回は録画しました)、タモリ倶楽部、ブラタモリが終了し(すいませんクイズ番組ではないが好きでした)、タイムショックなど一時的にリバイバルを果たす番組もあったのだが、現在は東大王(なんとこちらも2024年9月18日放送終了……)なんかで活躍するミスター東大王こと伊沢拓司をはじめとしたクイズ集団QuizKnockが誕生したり、飛ぶ鳥を落とす勢いでクイズ番組を席巻しているカズレーザーとか知性派タレントとかのクイズ番組を観て、なるほどー、すごいなーなどと思いつつもどこか物足りなさを感じていたのは何故だろうと考えると、やはり、視聴者参加型のクイズ番組の衰退が原因なのだろうと思うのだ。
視聴者参加型のクイズ番組が減ったのにはいくつか理由がありそうだ。
考えてみれば昔はテレビに映っただけでも結構な騒ぎになったものだ。ソトノミストも子どものころ生放送中の国際マラソンにちょっとでも映ってやろうと、自宅のビデオ録画を回し、ランナーたちが走る沿道で弟と一緒に旗を振ってみたが、ほんの一瞬、豆粒くらいにしか映っていなかった。ほかに思い出すのは、やはり生放送の情報番組 ズームイン朝! のワンポイント英会話のコーナーで、小学校の同級生ピロキがウィッキーさんに英語で声を掛けられているのを観た時は大興奮だった。あの時はピロキが、「ハロー」以外ぜんぶ日本語で返しているのが面白かった。
でも、配信コンテンツが充実している現在だったらどうだろう。誰もが主役になってユーチューバーにだってなれる時代。ちょっと街角インタビューでテレビに映ったぐらいじゃ、その昔ウィッキーさんに声を掛けられたピロキのようなヒーローにはなれないだろう。
映像を取り巻く環境が多様化し、自分を他人に見てもらう場所が圧倒的に増えた現在は、昭和の頃のように「目立とう精神の塊」みたいな人を見受けなくなったような気がする。駅前なんかでアナウンサーが深刻な列車事故の生中継をしている後ろでしつこく変顔でピースサインやコマネチをやってみせる若者がいない。まあ、そういうのは断然いない方がいいのだけど。
なんの話だったか途中から判らなくなってしまったが、そう、視聴者参加型のクイズ番組が衰退した原因のひとつに、自己表現の場所が増えすぎたこともあるのかも知れない。テレビ側に出向かなくたって、自分が面白いと思うクイズ番組を自分で制作して配信しちゃおう、なんてことが可能な時代になったという側面もあるということだ。
では、テレビ番組制作サイドは視聴者参加型をどう捉えているのか。そこには、芸能人でなく一般人が出演することへの配慮や問題点があった。
「一般人の解答者だと視聴率が上がらない」
「笑い、面白さに繋がりにくい」
「出演キャンセルやクレームが起きやすい」
「必ずしもスポンサーが望むターゲットに向けた番組にならない」etc.
様々な事情を抱えながら、規制に縛られながら苦心する制作サイドの悲鳴が聞こえてくるようだ。
そうなると面白いかどうかは番組進行の司会者の手腕にかかってくるだろう。アメリカ横断ウルトラクイズの福留功男アナ(トメさん)は見事だった。当然、ただ問題を読み上げるだけではなく、解答者たちの性格、特徴を捉えて彼らひとりひとりを引き立てる。おだて、叱咤し、慰めたりして番組全体を盛り上げていたように思う。
ウルトラクイズは面白かったし夢があったよなあ、それにしてもクイズ番組減ったなあ、そんなやり場のないクイズ番組愛を抱えながら日々テレビ欄を眺めているのだが、夏の終わり頃だけは希望を持ってテレビ欄を見る。それは “高校生クイズ” の文字を探しているからだ。
ウルトラクイズを踏襲するクイズ形式と効果音。夏休み中の一般高校生3人で1チームの編成(男女混合チームもあり)。クイズの舞台は日本列島。列車やバスで大移動しながらクイズの会場が入れ替わる。また、近年の司会進行、メインパーソナリティはその年ごとに違って、旬のお笑い芸人、芸能人、アイドルグループなどが務めるが、そもそも高校生クイズの企画提案者は福留アナ(トメさん)であって、第1回から第10回まで司会も担当したのだ。偉大なるトメさん。なお、第11回から第20回までは福澤朗アナ。福澤アナの決め台詞は「ジャストミート!」だったが、本番組中は封印し、「ファイヤー!」と叫んでいたのは、スポンサーであるライオンの競合他社 花王の商品に、ジャストという洗剤があったためだ。
高校生3人のチームワークと得意分野のバランス、知識だけではなく体力、それこそ運も味方につけなければ勝ち進めない。参加チームは地区大会を勝ち抜き、学校を代表して戦いを繰り広げ、そこにドラマが生まれる。クイズ甲子園と呼ばれる所以だ。
今年は、9月10日の朝刊に “高校生クイズ” の文字を見つけ、即座にリモコンを手に取って録画ボタンを押した。
あくる日、家族が寝静まった深夜に一人、録画しておいた高校生クイズ2024を見始める。お笑い芸人 かまいたち なんかが面白可笑しく番組を進行していた。
さっそく応援したくなるチームがあった。早押しのやり過ぎで親指を疲労骨折しているという男子がいる千葉・昭和学院秀英高校だ。彼は親指にテーピングを巻いている。鋭い目つきのガリ勉(古っ!)とは程遠い、ユーモアのセンスを持つ男の目。なにかやってくれそうだと思って見ていたら彼らは決勝戦まで進んでくれた。そしてその決勝の舞台で親指のテーピングをスルスルと剥がし取ってから勝負に臨んだのだ。ちょっと北斗の拳っぽい演出で面白かった。
高校生クイズを観ていつも思うことだが、とにかく高校生たち全員ひた向きだ。誰一人手を抜かない、正解を取りに全身全霊で問題に向き合う。きっと制作サイド、スタッフ一人ひとりもきっとそうなのだろう。その空気が番組全体から伝わってくる。
惜しくも決勝で敗れた兵庫・長田高校の男子の言葉が沁みた。
「クイズがなかったら知り合うこともなかったメンバー3名が、夏1週間も寝食を共にしている不思議。きっと大人になっても、この夏を思い出して連絡を取り合ったりするんじゃないかな」
バラマキクイズの問題が入った封筒を手に、首筋に汗を流しながら比叡山延暦寺の長い階段を駆け上る彼の姿とその言葉が流れた時、世間の枠組みたいなものに擦り減って薄汚れたオジサンの心にジワリと沁みてしまった。なんだろう、ちょっと疲れてるのかな。
ウルトラクイズ時代からバラマキクイズはいつも残酷で、苦労して拾ってきた封筒の中身のクイズを読み上げてもらうはずが「ハズレ」の文字だった時。親になったような気持ちで彼らを心配してしまった。なんだろう、男の更年期かな。目頭が熱くなってしまった。
「一宮高校の事を思うと複雑」と言ったのは、運任せの一騎打ちで敗者復活した大阪・天王寺高校の女子リーダーの言葉。結果、蹴落とすことになってしまった相手への配慮からでた言葉だった。
一方、「時の運を使い果たしていたようです」と蹴落とされた側、一宮高校のリーダーは潔かった。
仲間と共に大人になっていく、その過程を垣間見た。そんなような事をメインパーソナリティの一人である指原莉乃が言った。
翻って俺自信は高校時代に何か成し得たことが一つでもあっただろうか?
ふと思案してみるが特に思い当たるものはなかった。