会社創立以来、ずっと続けてきた仕事がなくなった。
4月いっぱいで、これまで常駐という形でお手伝いさせていただいたある出版社の仕事から手を引くことになった。
いろいろ事情はある。すべてがコロナのせいとばかりは言えないのだが、でもそれが引き金となってけっきょくわたしの仕事に対する向き合い方を揺さぶることになった。
わたし自身、ずっともやもやしてきた感情。
やりたいことを優先するのか、やりたいことをするためにほかのことを優先させるのか。
会社というものを創業して、もちろんどこかでは分かっていたけれど、会社の運営のために毎月どうしても回さなければならないお金が必要になる。
そのお金は本来なら本業の収入でまかなうべきだけれど、それをずっと避けて通る収入源があったのだ。しかし、そのお金も本を作るために回すほどの余裕もなく、気がつけばその出版社の社員のように働くことが当たり前になっていたのである。
こんなことを書いているが、もちろんその出版社のサポートがなければ旅と思索社の存続はあり得ない。でもその会社でさえ順風満帆ではない。報酬は仕事の対価として受け取るべきものではあるけれど、わたしのために恐らくは身銭を切ってくれている社長に、感謝とやるせない思いがずっと交錯していたのだった。
そして起きたコロナウイルスの流行。
中国とのコンテンツビジネスに一縷の望みをかけてきた社長の取り組みはすべてストップしてしまった。
決断するタイミングは今しかない、そう思って社長に打診したのだった。
どこか晴れ晴れとした思いだった。
もちろんお金の問題はある。
会社としては、昨年借り入れた金融機関からの融資と、考えあぐねて申請した持続化給付金を頼りながら、定期的な病院関係のリピート発注などで切迫した状況は避けられているけれど、いずれは帰路に立たされる時が来るかもしれない。
世の中を見渡してみれば、今の社会の変化をうまく乗りこなし、この苦境を切り抜ける人がたくさんいる。
自分には真似できそうにもないと思いながら、先日お会いした82歳の現役社長が言っていた、
「才能なんかないものを期待しちゃダメだよ。人間に必要なのは知恵と努力しかないんです」
という言葉を思い出し、まずは惰性をやめ、「旅と思索社の出版」に専念しながら模索していくしかないと腹をくくる。