汗びっしょりの手と握手をしませんか? ――編集ダイアリー2020年6月9日


 暑い!
 最近、口からついて出るのはこの言葉ばかりだ。

 初夏の訪れとともに個人的に気になるのが「汗」である。
 わたしは子どもの頃から汗っかきである。

 ただの汗っかきならまだいいのだが、問題は手の汗である。
「手に汗握る」という言葉がある。みなさんは実際にそうした経験がおありだろうか。
 わたしはほぼ毎日の出来事だ。手のひらに湿り気を感じる。そうすると次から次へと汗が噴き出てくるのである。

 そういうときの精神状況を観察してみると、手のひらや足の裏に汗が噴き出るのはこんな時だ。

 ・朝、家を出た数分後
 ・混んだ電車の中
 ・対面して交渉ごとをするとき
 ・大切なスケジュールが差し迫るとき
 ・校正など集中力が必要とされるとき
 ・車を運転するとき
 
 要するに緊張する場面になると決まって汗が出る。子どものころからずっとこの症状は変わらない。
 いろいろ調べてみると、「多汗症」というものらしい。ストレスや極度の緊張が原因らしいが、交感神経が人よりも過敏な体質でも同じ症状が出るそうだ。

 わたしはいったいどうだろう。
 確かにとても緊張する場面もあるが、緊張している感覚がない時にも症状が出るから、精神的な問題としてとらえるのは微妙である。
 手術で症状を抑えることができるようだが、「代償性発汗」といって、いままで汗をかかなかった場所から汗をかいたり余計ひどくなることがあるらしいので、まあ、このまま共存しながら生きていくしかほかない。

 しかし、本づくりに携わるものとしては、非常にやっかいではある。
 校正紙が赤字を入れる頃にはすっかりカール紙。
 PP貼りをしていない本のカバーは読んでるうちに背や小口がボロボロ。
 インクがにじみ紙が汚れる。
 納品用の新刊のカバーにくっきり手形。
 仕事が終わると机の上は指紋だらけ……。

 普段の暮らしでも、いろいろ悩みは尽きない。
 まず、iPhoneの指紋認証が使えない(タッチボタンと指の汗をきれいに拭いてから)。
 店頭で申込書などを書くと、借りたボールペンが汗でびっちょり。
 コンビニなどでお釣りをもらうときは、手放しチャリン。
 握手……なんて恐ろしいこと。
 汗をかいていることが気になってなおさら汗が噴き出る。ハンカチで拭けば拭くほど湧き水のように!

 でも、時には役に立つことだってある。
 たとえば、紙をめくる時。適度な湿り気は紙を正確に感じ取り、スムーズに作業も捗る。それでも冬などに手が乾燥し、手が滑ってまったく作業が捗らないときがある。
 そんなとき、気がかりなスケジュールを思せばよい。一瞬にしてその悩みから解放される。
 バスの運転時も手袋が汗を含んでほどほどに湿り気からある方が、ハンドルをグリップしやすい。

 もうひとつ、これはとてもいいことだと自分では思っているのだが、手からとても汗が出るときは、
 <なにか心に引っかかることがあるのかな……>
と気づかせてくれる。心の声を聴くシグナルである。
 それで物事の優先順位がガラッと変わることがある。解決の糸口が出てこないことも多いけれど。

 人に知られるのがなんとなく恥ずかしくて、ずっとひた隠しにしてきたのだが、書いてみるとカミングアウト的な感じがして気持ちがすっきりする。
 
 この原稿を書きながらやっぱり汗をかいている。
 そして誰かと握手をしたい衝動に駆られている。

 

 


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