領収書の束を眺めながら ――編集ダイアリー2020年6月11日


 昨日は領収書の整理に明け暮れた1日だった。

 旅と思索社は4月末日が決算日である。
 世間一般の会社が多くが3月末決算なので弊社はひと月遅い(ちなみに決算期は任意に決められる)。
 そして、決算日から2か月以内に税務申告を終え、税金を納めなくてはならないのだ。

 先週、会計士の先生から進捗を確認する電話がかかってきて、必死になって領収書の束を整理しているところである。

 領収書を手繰りながら、ああ、そうだった、あんなことしてたな、と思い出す。
 酒場の領収書を眺めながら、この時は賑やかにあんな話をしていたっけ、みたいなことを思い出しそうになるが……ダメダメ、冷静に処理を進める。

 領収書は年が明けて、4月になるにつれてその数がぐんと少なくなった。

 そろそろ先が見えてきた。終電も近い。
 一瞬手を止めて、雨音も止み、ひっそりと静まり返った事務所の中を見渡す。
 オープン予定だった店は、準備途中のまま。本棚には行き場がはっきりしない荷物が詰められたままだ。

 考える。もし、タイミングが少しずれていたらと。
 逆にもっと取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
 そう思うと、複雑な心境ではある。

 今期の決算も決していい数字ではないが、ここまで来られたのはなによりもこれまで力を貸してくださった方々のおかげである。

 そしてこの小さな事務所兼店は、自分自身のよすがとなるべく作り上げようとしていたものだったし、それがたくさんの人にとっても同じような場所になれるように願っていた。だからわたしのやるべきことは、早くこの店をオープンして少しでも前に踏み出すことなのだろう。

 ふと、昔読みふけったキューブラー・ロスの本にたしか書いてあった「がん」になった人が自らの病を知り、葛藤して受け入れるまでのプロセス。
 実はがんや今回のようなコロナウイルスに限らず、人は自ら大きな岐路に立たされたとき、同じような経験をするをするのかもしれないな――などと、まとまりのないことをぼんやり考えながら、事務所の電気を消した。

 

 


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