引き継がれるもの ――編集ダイアリー2020年6月18日


 それは突然の連絡だった。

 夕方、5年ほどお付き合いさせていただいているある会社のすS社長の片腕として活躍していたN専務が亡くなったとの報が入った。
 通夜は今日で告別式は明日、しかも場所は長野。遠くから悼むことしかできないのが悔やまれる。

 社長から「Nの本を出すから取材に来い」と突然連絡があって伺ったのが5月の連休前だった。
「また新しいことを思いついたのかな……」そんなことを考えながら八王子に向かった。
 久しぶりに見るNさん。すっかり老けてしまったその姿に驚き心配していたのだが、こんなに早く逝ってしまわれるとは。

 亡くなった理由は聞いていない。しかし一報から数時間が経ち、ああ、S社長が急に本を作ると言ったのは偶然などではなく、そういうことだったのかもしれないと妙に腑に落ちた。

「あいつの営業のやり方を本にまとめてくれ」
 ワンマンなS社長の要望でNさんも大変だなあと思いながら、当日、Nさんとわたしは顔を見合わせ、社長の命令だから仕方ないねとインタビューしたのが最後の記録になるとは、彼自身も思っていなかったのかもしれない。

 社長の思いつきが1冊の本になる可能性は限りなく低いが、なんとか彼の声を形にして残したいと、強く思う。

 

 


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