ひとり好き ――編集ダイアリー2020年6月26日


 ついこないだまでの、ひとけのなさがとても恋しい。

 緊急事態宣言が出されて街から人が消え、狼狽した2か月前。
 終電前の帰りの電車はいつもひとりだった。
 いま、車内は以前の状態に戻り、酒におぼれた老若男女があふれている。

 かく言うわたしだってもともとはそちら側になることが圧倒的なのだけれど、いまのところそういう気分にあまりなれずにいる。
 自粛中のあの静けさは、意外にも性に合っていたらしい。

 そもそも、旅と思索社を起業してからはずっとひとりでいることが当たり前になって、自分は孤独なのかもしれないと後ろ向きに思うこともあった。
 自分自身、これまでの会社を辞めたときも、自分だけ世の中から取り残され、置いてけぼりを食ったような気がしていた。それは会社を作った直後もそうだった。
 でも、いつのころからなのだろう……今ではそれをけっこう楽しんでいる自分がいることに気づいてしまった。

 自分でいうのもなんだが、結構人懐っこいタイプである。
 うれしいことも悲しいこともみんなと共有したいし、ひとり酒は依然苦手で、初心者の域を出ていない。
 けれども、仕事をしている時と旅をしている時は、ひとりでいることが全く気にならないどころか、かえって自分からそれを求めている。

「ひとりが好きです」
 こういうことを口にするタイプは、ネクラだとか感傷的だと思われてネガティブに映りがちだけれど、実はとても前向きで健康的なことのような気もする。
 
 最近、ひとりぽつんと、夜の更けた事務所で仕事に勤しんでいると、なんともいえない幸福な気分に襲われることがある。
 少しは自分と向き合うことが上手になったからなのだろうか。

 

 


同じ連載記事