22. 食べること呑むこと ~皆で元気に飲ろうぜ~


 

 

 

 夏の一時期、餃子ばかりを食べていた。
 身内の心身不調が同時多発となった頃のことである。
 そのようなことや時期はほぼ皆が経験する「あるある」だろうし、何もかもがすぐにすべて解決ということはない。
 でも今回は流行りの「スンッ」ならぬ「ずーんっ」となることも少なくなくて、なんてことないような中華屋でひとり食べたり、なんてことないようなやつを買ってきて焼いたりした。
 
 なんで餃子やねん。
 
 テレビ番組『町中華で飲ろうぜ』に今更ハマっている。
 存在は知っていたが観たことがなかった。
 東京方面の店が多くピンと来ないような気がしていたし、批判的なことも考えたりしていた。
「そないして紹介した街のちいさな店にスマホ持った客が来てしまうと、そこをほんまに大切に思っているお客さんが入れなかったり居心地の悪い気持ちにならへん?!」
 
 せやのに何の気なく観たら激ハマりだ。
 どこの街にもあるような中華屋で実に美味そうに呑み食いをする。
 なんとも肩の力が入っていないようなところや極端に褒めて過剰に持ち上げたりしないのがいいなと思った。
 時に「おいおい」くらいのテンションでめっちゃ呑むめっちゃ食べるのがいい。
 何より、瓶ビールを美味そうに呑むのがとてもいい。
 
 中華っていうのが、ええんやろうなあ。
 こってり。油。そこに酒。
 ヘルシーとは言い難い。でも、でもでも。だから。

 

 

 餃子は斎藤さんとの酒場巡りの際も注文率が高い一品だ。
 天下茶屋の専門店や、難波の珉珉本店に行ったことは以前(第15回)にも書いた。
『餃子の王将』の厨房を見渡せる席は二人して「アリーナ席」と呼んでいるし、注文の際に「よく焼きで」と伝えるのもテッパン。
 お供は瓶。生でもいい。でも瓶がある店やある日が嬉しい。
 かの番組では大瓶のことを「633ml(大瓶の量)は大人の義務教育」と言う。
 私たちも大瓶派(第12回)。
「えー。この店、中瓶しかないー」
「中瓶って、2人で半分こしたら一瞬ですよね」
 いや、中瓶でもええねんけども。
 
 食べられること食べたいものを食べること。そして呑むこと。
 時にはジャンキーなものをジャンキーに呑んで食べる楽しみやしあわせ。
 ほんまに、すごいことやよなあ、大切なことやよなあ。
 食べることや食べる内容をより考えるようになった近頃だからこそ思う。
 
 なにげないような中華屋やチェーンの中華屋で、頭の中こんがらがりながらも、餃子を酢胡椒にひたし手酌のビールで見渡すと、いろんな皆が思い思いに思い思いの品を頬張り呑んでいた。
 餃子とか、ニラレバとか、野菜炒め大盛とか、キムチとか、キムチチャーハンとか。
 皆、汗をかきかき、油! 肉! 飯! 麺! みたいなこてこてをビールやチューハイで流し込む。
 漫画雑誌をめくりながらとかスマホで動画を見ながらとか、仲間とお喋りし食べこぼしながらの人たちとか。
 決して上品な光景とは言い難いけれど感じ入るものがあった。
 店員さんに大声で話しかけている御老人にも遭遇した。
「●●さん昨日来たやろ? 昨日退院したんや。2か月入院してたんや。今日も待ち合わせしてるねん」
「そうなんー? 知らんかったわー。元気そうやったよー」
「とりあえず来るまでにビールセットとハイボール、あとフライドポテトも」
「はいはいー。大丈夫―?」
 
 件の番組を観ていてなぜか涙が出てくるときもあった。
 泣くような番組じゃ全くない。泣く箇所はたぶんひとつもない。でも。
 
「なんて美味そうに呑むねん食べるねん」
「あー、しょうもないこと言うてるわ」
「食べて、寝て、とにかく元気で居よねまた呑もね」

 

 

 斎藤さんとの酒場巡りを始めるきっかけ、酒場やなんてことのない店でお客さんやお店の方とわいわいやるようになったきっかけのひとつも餃子だ。(第2回
 立ち呑み屋で知り合ったおっちゃんから餃子キーホルダーをもらうという謎の出会い。

 

 

 あれからわたしたちは一時期スマホカバーを王将にしていた。
 スタンプカードのスタンプを貯めるともらえるやつ。
 斎藤さんは今もつこつ貯めて、その時々のグッズと交換し、わたしにもくれる。
 メニューのイラストが描かれたマグカップ、餃子が描かれたタオルハンカチ、謎過ぎる王将オリジナルワイヤレスイヤホン。
 身の回りがどんどん王将に侵食されている。
 
 思えばいつも一緒に呑んで食べるものも賑やかかつジャンキーだ。
 おでん、串カツ、ちくわ、チーズ、ちくわチーズ、コロッケ、お洒落じゃないポテサラ、大好きな食堂の名物である肉天、そして餃子。
 でも、これがええんやろうなあ。SNS映えは全然しないけど。

 

 

 今年に入ってお互いがお互いのことというか「あるある」で忙しく、なかなか会えておらずなのだが、ええ塩梅のタイミングでLineが来たり送ったり。
 
 基本しょうもない話しかしない。
 なんで今この時代に『ロッキー・ホラー・ショー』で盛り上がったのか。
 なんで郷ひろみと細川たかしの顔の話を延々していたのか。
 最後は意味不明なLineスタンプを連打し合うだけの不毛な時間が続く。
 和菓子のおはぎが笑っているスタンプとか。
 可愛くないうさぎが「そりゃソーダ」とか「うれシイタケ」とか言っているスタンプとか。
 遂に斎藤さんは今まで食べたおつまみでオリジナルLineスタンプまで作成した。
 肉天、カレー、出し巻き、チーズちくわ。好評発売中。全く映えへんけど。

 

 

 秋にはひさびさに西成の闇鍋おでんを食べにいこうと約束をしている。
 以前、第8回で話題にした砂糖たっぷりの映えない真っ黒おでんだ。
 633を半分こしながらやるのを楽しみにしている。


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