ソトノミスト「神楽坂・白銀町」をゆく。


 本日のソトノミストは、東京メトロ「飯田橋」B3出口を降りた。
 地上に出て「回れ左」をすると、江戸の中心をぐるりと回る「外堀通り」の走る大きな交差点がすぐそこに見える。
 ここが、「神楽坂下」。

  

 この「外堀通り」を右へと行けば新宿方面となり、左へ行けば秋葉原方面となる。
 さて、今日は「回れ右」をして坂を上り、「神楽坂上」を目指そう。

 

 

 坂下から坂上までは、ほぼ直線で500mほどの神楽坂。様々な店舗が目を楽しませてくれる商店街なのであるが、大規模な店舗がないところがいい。
 近年、チェーン店やコンビニの出店も目立つようになったが、江戸時代創業の店や明治・大正時代から続く店もあって、昔懐かしい雰囲気をもつこの坂。
 神楽坂通りを歩きつつ、左右の路地に目を向ければ色々なお店がひしめき合っている。

 たくさんの人で賑わっている神楽坂であるが、外国の方々も結構いらっしゃる。周辺には東京日仏学院などフランス関係機関があったり、日本慣れした外国人の観光スポットもあったり。実はインターナショナルなこの坂。
 路地奥へと歩けば静かな住宅街もある。昔ながらの印刷会社や出版社、商店、新しいオフィス街とも隣接している。小・中学校、幼稚園もあれば大学だってある。社寺も多い。
 昼も、夜も、訪れる人にも、住む人にも、やさしい街づくりをと、お店や地域の方々が尽力されているのを肌に感じられるこの街。

 ちょっと急な坂を上りきると、傾斜が緩やかになる。
 しばらく歩くと左手に、毘沙門天で有名な「善国寺」が現れる。

  

  

 そしてその右手前にある店が、「五十番・神楽坂本店」。

 「五十番」は、昭和32年創業の老舗で、手作りの肉まん、シュウマイなどの点心を販売している。店頭で販売されているのは、13種類のジャンボな肉まんと、ミニまん5種。
 並んでいる肉まんたちをニラミつけ、迷う。優柔不断ソトノミスト。
 あんまんは「丸形」、純正肉まんは「銀杏」、カレーまんは「黄印」……、といった肉まんのてっぺんの「目印」を見るのが面白い。

  

  

 迷っている間に、ほかのお客さんがつぎつぎと買って行く。
 ようやく決めた。「五目まん」も「海老チリまん」も気になったがやはり王道、普通の「肉まん」に決めた。お勘定をしてアツアツを受け取ったら、すぐにマイ保温バッグに入れる。

 「善国寺」の向かい正面あたりから、吸い込まれるように右の路地へ入ってゆくソトノミスト。この狭い路地の石畳を歩くと、異空間に迷い込んだような感覚になる。まだシラフにも関わらず――。
 店の中が見渡せるオープンタイプの料理店や、縄のれんの酒亭、一見客の入りにくそうな日本料理店……。路地に次々現れる魅力的な店を眺めながら石畳を歩く。

  

  

 やがて石畳は終わり、あっという間に現実の世界に引き戻されると目の前は「大久保通り」。
 このところ銭湯へ行ってなかったソトノミスト。昔、風呂なしの借家に住んでいた頃は銭湯通いだったから、たまに無性に大きな風呂に入りたくなる事がある。
 石鹸とタオルぐらいは持ってきた。
 大久保通り沿い、「神楽坂上」交差点のほど近くにある銭湯、「第三玉の湯」へ向かう。

 看板を発見。ここだ。

  

  

 自転車置き場と、自販機の並ぶアプローチを進み、のれんをくぐれば自動ドアが開く。
 ここ「第三玉の湯」はフロント形式の銭湯で、ロビーでは様々な入浴グッズはもちろんドリンク、アイスクリームまで販売されている。

 下駄……ではなく、靴を脱ぎ、下駄箱の松竹錠を掛ける。ここにはサウナもあるようだが、通常の入浴料を支払い男湯へ。
 脱衣所にはソファ、ベンチ、それにマッサージチェアが2台ある。誰も見ていない奥のテレビでやっているのは食べ歩きの番組か。

  

  

 裸になって、石鹸とタオルを持って浴室へ。桶と椅子を持って、空いたカランを見つけて座る。今日かいた汗を湯で流す。サウナに出入りしている客は皆、「第三玉の湯」名入りの黄色いタオルを持っている。
 そうか、あの黄色い貸タオルがサウナ料金を支払った目印なのだ。

 立ち上がり、浴槽を見る。ジェットバス、漢方薬湯、水風呂もある。まずはいちばん大きな浴槽に入る。熱い湯に初めはやせ我慢。「ふーっ」などと言いながら、腹まで浸かる。
 浴槽の真ん中で、熱くなる体を感じながらぼんやりとペンキ絵を眺める。至福の瞬間。

 浴槽の隅に1人分座れるスペースがある。そこに落ち着こう……。ん? あれ? 痛テテッ!
 これは、座れば体に電流が流れてくる電気風呂。労働で疲れた腰には多めに流れてくるように感じる。しばらく電気ビリビリの痛い気持ちよさと格闘してから風呂を上がる。
 体を良く拭いてから、浴室を出る。脱衣所で着替えてロビーへ。

 風呂上がりの1本。よーく冷えた瓶の牛乳を飲む中年男性客。つやっとした頬を向かい合わせて談笑している若い女性客たち。ロビーで客たちがそれぞれに体をクールダウンさせている。
 ソトノミストは瓶のコーヒー牛乳が気になったが、何も買わずに下駄箱から取り出した靴を履く。温まった体を冷ますべく、今日も冷たくて「プシュッ!」と音の出る飲み物を持参しているからだ。

「第三玉の湯」の裏口から出る。その路地を右へ進むと、「瓢箪(ひょうたん)坂」の坂下に出る。

  

  

 坂の説明柱には、「坂の途中がくびれているため呼ばれるようになったという。」と書かれている。
 でも、くびれていない。昔はくびれていたのだろうか。それとも瓢箪がなっていたからではないか……。

 そんな事を思案しながら坂上へ。本日の目的地が見えてきた。この周辺では一番の広さを持つ、「白銀公園」。

  

  

 真ん中には大きな石の山があって、登ったり隠れたりして子どもたちが遊んでいる。ソトノミストが子どもの頃には、公園南側の門を出たところに駄菓子屋があったのだが、今は無くなってしまった。
 しかし随分と親子連れで混み合っている。ベンチもほぼ満席。
 その邪魔にならぬよう、目立たぬよう、このおじさんは公園の隅っこに落ち着けるところを見つけて座る。加えて言えば、ベビーカーを携えたマダム連中から一番離れた場所を。

 まずは「五十番」の大きな肉まんを頬張る。しっとり、ふかふかな生地の中からジュワッと美味い肉汁が出てくる。品の良い生地の香りと、肉の旨味をゆっくりと噛みしめる。

 次に、持参した「ブリュードッグ PUNK IPA」の栓を抜く。

  

  

 一口目。パイナップルに似た麦芽香が漂う。そして口の中にしばらく居座る苦み――。
 <一般的なラガービールの40倍のホップを投入>と触れ込むだけのことはある。
 残りの肉まんに、また喰らいつく。

 あっという間にソトノミを終える。
 長居は無用。無論、全てのゴミは持ち帰る。

 撤収!


同じ連載記事