ソトノミスト「水道橋」をゆく。


 

 

 本日のソトノミストはJR「水道橋駅」東口を降りた。
 交差点からは東京ドームシティの建物を見渡すことができる。東京ドームシティは、東京ドームを取り囲むように、ラクーア、東京ドームシティアトラクションズ、東京ドームホテル、ミーツポートなど様々な施設をもつエンターテインメントスポットだ。
 野球、コンサート、ショッピング、スパ、飲食店、各種イベント等々、様々な世代の人たちがそれぞれの目的を持っていつも賑わっている。もちろん日本最大のウインズ後楽園もあって競馬新聞を握って歩く人も大勢いる。50年続くバラエティ番組「笑点」の公開収録(入場無料)が後楽園ホールで行われているのは意外と知られていない。

 

 

東都名所御茶之水之図 歌川広重 画 「国立国会図書館 電子展示会より」

東都名所御茶之水之図 歌川広重 画 「国立国会図書館 電子展示会より」

 そんな楽しそうな場所とは真逆の方向へ進むソトノミスト。外堀通りをお茶の水方面へと坂を上ってゆく。
 外堀通りと神田川とJR中央本線が並走するここ「お茶の水坂」の人通りは少ない。そういえばこの坂、学校、図書館、駐車場、公園などはあるが目立った商業施設が見当たらない。たいていの人は電車や車で通過してしまう所なのかもしれない。文京区教育委員会設置のお茶の水坂の説明札によると、
「この神田川の外堀工事は元和年間(1615~1626)に行われた。それ以前に、ここにあった高林寺(現向丘2丁目)の境内に湧き水があり“お茶の水”として将軍に献上したことから、「お茶の水」の地名がおこった……」
とある。
 ふと思い出したのは寅さんの啖呵売の口上。
「四角四面は豆腐屋の娘、色は白いが水臭い。四谷、赤坂、麹町、ちゃらちゃら流れるお茶の水、粋な姐ちゃん立ち小便!」
 さて、この坂を少し上った右手に神田上水掛樋(かけひ)跡の碑がある。ここは江戸時代に神田上水を掛樋で向こう岸まで渡していた場所。渡した後は神田や日本橋へと上水は流れていたのだ。ちなみにこちらは文京区で川向こうは千代田区で、あちらにはあちらで千代田区教育委員会が設置した神田上水掛樋跡の立て札がある。ここの掛樋の浮世絵は以前どこかで見たことがあったのだが、なるほど水道橋の地名はここにあった水道橋(すいどうきょう)にちなんでいるというわけだ。

 

 

 お茶の水坂を上りきってすぐの順天堂前の信号を渡り、一本目を左に曲がると本日の目的地が見えてくる。ここが東京都水道歴史館だ。東京都水道局の運営するこの施設の入館料は無料で、東京水道の昔と今が模型や出土品、映像などで紹介されている。
 入館すると受付の方に声をかけられた。順路は2階からで、音声ガイダンスの機械も無料で貸し出してくれるとのこと……無料?! 無料という言葉に弱いソトノミストは、さっそく機械を首から掛けさせてもらって操作方法を教わって階段を上ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 2階では、江戸時代の上水道の歴史が紹介されている。展示物をひとつづつ順路に沿って進んでゆくと、さっきお茶の水坂でみた掛樋跡のミニチュア模型があった。広重の浮世絵で見る掛樋とはまた違って空から実物を見下ろすような感覚は面白い。近年の諸工事の際に丸の内などで出土した木樋なども展示されており、当時の木工技術水準の高さがうかがえる。
 さらに進むと突然、江戸時代の長屋に迷い込んでしまう。そのまま時代劇の撮影のセットにでもなりそうな、庶民の生活感漂う実物大の模型は当時の生活と上水との結びつきを細部まで見せてくれる。こんな井戸端で女たちは洗濯などしながら世間話や噂話に花を咲かせていたのだろう。

 順路に従って、階下へと下りてゆく。1階では、近代から現代の水道の歴史が紹介されている。震災や戦争、水不足なども乗り越えてきた東京水道がやがて水質や規模でも世界有数のレベルに達してゆくところである。

 

 

 写真奥にあるのは馬水槽のレプリカ。この馬水槽は正真正銘みんなの泉で、手前の大きな水槽が馬用、下部が犬猫用、裏面が人間用の水飲み場となっている。なんとこの実物が新宿東口のアルタ前にある(新宿区の指定文化財)のだそうで、今度じっくり見てみようと思う。馬水槽の展示は、馬力や人力が当たり前だった時代はついこの間のことだったんだと実感させてくれた。
 そのほか、実物の共用栓や水道管の展示品、画像映像によるダムの建設や浄水処理技術、水と暮らしの変遷についての解説などが紹介されている。
 順路の最後の方に、テレビゲーム式に三択で答えるクイズがあるので今日学んだことの総復習ができる。ソトノミストもチャレンジしたが半分くらい間違えた。問題を間違えたときのブザーが館内に響き渡っている気がしてなんとも恥ずかしかった。

 

 

 これでひと通りの展示は見終わった。ラウンジの隅に冷水機があったので、マイマグにありがたくお水を頂戴してから歴史館を後にする。
 今回は3階の閲覧室へは行かなかったが水に関する図書や他にはない貴重な資料が閲覧できるようだ。なお、博物館の裏手には東京都水道局が管理する本郷給水所公苑があり、そこでは神田上水の石樋が保存されている。公苑へは後で行くとして、まずは減った腹を満たすべく食料の調達だ。

 

 

 

 

 本日の目当てのお店は「FIRE HOUSE」。一度食べたらやみつきになるという噂のハンバーガー屋さんで、本郷三丁目の春日通り沿いでよく行列を見かけて気になっていたお店だ。行列が苦手なこともあって今まで食べたことがなかったのであるが、少し離れた別店舗がデリバリーとテイクアウト専門でやっていることを知った。そこなら行列せずに持ち帰りできるはず! という訳で訪れたのがここ「FIRE HOUSE DELIVERY SERVICE」。大通りからは一本奥にあるのでちょっと目立たない場所にあった。

 さっそくお店に入って注文。少々値は張るが、たまに食べるならと奮発して注文したのは基本の「ハンバーガー」。
 5分ほどお待ちいただきます、ということでメニューでも見ながら待たせていただく。メニューを見れば15種類もあるハンバーガーから始まり、サンドウィッチ、ホットドック、スープ、サラダ、デザート、もちろんドリンクもあって種類豊富である。
 出来たてほやほやのバーガーを受け取ってお勘定。そして再び水道局の施設へと舞い戻る。

 

 

 

 

 

 

 さっきと場所は同じであるが、今度は歴史館ではなく本郷給水所公苑へ向かう。この小さな坂を上ったら公苑へとたどり着くのだ。
 坂を上りきると、目の前に広がる解放感ある敷地に驚かされる。ここはバラ園を中心とした洋風庭園と、武蔵野の雑木林をイメージした和風庭園に分かれており、ブランコなどの遊具もあり、そして神田上水の石樋が保存されている。地上2階にある庭園なので通行人には見えないからなのだろうか人は少ない。

 

 

 腹の虫が鳴るのでそそくさとベンチに腰掛けて、袋からバーガーの入ったユニークなデザインの箱を取り出す。そして、箱を開ければ中から大きなハンバーガーが顔を出す。となりのポテトがまた嬉しい。
 ケチャップをつけてポテトを少し食べてから、ハンバーガーを手に取って大口でかぶりついてもぐもぐ。ジューシーなパティ、トマト、レタス、レリッシュとオニオンとかいろんな味が口の中で……うーん、参った。
 ハンバーガーにKOされ、さっき冷水機の水を入れたマイマグの蓋を開けて、少しだけウイスキーを注ぐ。フォアローゼズの東京水道水割りはおいしくノドを流れていった。

 

 

 

 

 もともと湿地帯で海に近く、良質な地下水が望めなかった江戸の地に水を引き人材を集め、様々な文化が興り、永らく続いた江戸の世。260年も続いた理由は諸々あろうが上水が機能していたこともひとつであろう。
 ユンボも無い時代、ほとんど人力で上水を引いた先人たちのパワーには圧倒される。そこには想像を絶する苦労や失敗があったことも知った。

 蛇口をひねれば水が出る。こんなすごいことが当たり前になっていることに日々驚嘆すべきなのかも知れない。

 

 


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