【津】という文字を辞書で引けば、「港。渡し場」「湧き出る。染み出る」とある。「興味津々」という言葉には、興味がこんこんと湧き出るイメージがある。
福岡市博多区は中世より、博多津(はかたのつ)と呼ばれていた。
2016年11月8日に起きた、博多駅前二丁目交差点付近の道路陥没事故。まるで隕石が落ちて地面がえぐり取られたような衝撃的な映像は、多くの人の脳裏に焼き付いていることだろう。映像をよく見れば、アスファルトの下を這う下水道などのあらゆる配管、各種ケーブルなどが顔を覗かせていた。湧き出た水はクレーターの底に巨大な水溜りを作っていた。
子どもの頃、アリをジャムの瓶の中で飼ってみたり、モグラの穴を見つけてそれを掘り返していって遂にモグラを捕まえたりしたことがあったが、あの頃感じた「地中への未知」に再び惹きつけられる感覚があの映像の中にあった。
そんな地下の世界に広がっている通路の入り口、マンホールという縦穴に興味津々なソトノミスト。man(人)とhole(穴)を組み合せたこの言葉を聞いて何を思い浮かべるだろうか。今まで気にしたことなどない。というのが大方の答えだろう。
しかし、このTabistory.jpで「街を歩けば・・・お気楽収集旅」を連載されている多田欣也氏のように、マンホールの蓋の写真をコレクションされている方もおられるし、マンホール女子も増えているらしく、カメラを下に向けて写真を撮る人の姿は珍しくないらしい。
それもそのはず、日本のマンホールは世界に類を見ないほど多種多様なデザインが施されているのだ。例えば、旅先でカラフルなご当地マンホールなど見つけたらやはりカメラを向けてしまうだろう。さらに、日本のマンホールの蓋の技術は世界トップクラスなのだそうだ。マンホールの蓋だって軽くて、強くて、ガタつかないものの方が優れているのだ。
ちょっと近所のマンホールに注目しながら歩いてみるとしよう。
水道局、下水道局、電力会社、ガス会社、地下鉄などなど。マンホールの蓋にはそれぞれ管理している事業所のマークがついている。NTTの前身、電電公社時代のマークもまだまだ現役で使われている。
次の、東京都下水道局の管理するこの蓋の4つの文字キャップに注目していただきたい。左から<黄26><緑1G><緑3G><青11>となっている。
東京都下水道局は、平成13年から固有の識別番号をマンホールに付けることとしており、これはつまり、今までは名無しのどこの誰とも判らないマンホール君だったのが、このような名札をつけることにより、あぁ、君はいついつに生まれた、どこどこのマンホール君で、雨水管なんだね。などと一目で判るようになったのだ。臭気、陥没などの通報の際はこの番号を連絡すれば話が早いだろう。まず、文字キャップの一番左のキャップが<黄>なら合流管ないし汚水管であり、<青>なら雨水管であることを示す。次に、真ん中の<緑1G><緑3G>は識別番号。それから、右は排水管の布設年度を示す。黄色なら1900年代、青色なら2000年代を示していて、<青11>なら2011年の布設ということになる。また、蓋の上部にある「T-25」は荷重区分で、通行可能車両の総重量が25トンであることを示している。
ところで東京23区の下水道管を全てつないでみると、その距離は15,190kmにも及ぶのだそうで、これは東京~シドニー間を往復した距離とほぼ同じなのだそうだ。(東京都下水道局ホームページ、みんなの下水道クイズより。)ちなみにソトノミストはこのクイズに全問正解して、ネームシールと壁紙のデータをゲットした。
マンホールに親しみが湧いてくると下を向いて歩きたくなる。下を向いて歩くと、見えてくるものがある。それが暗渠(あんきょ)。地下水路のことで、東京にはかつて流れていた川が蓋をされ、暗渠となったところが多い。
高度経済成長期がスタートした昭和30年代。東京オリンピックに向けて活気づいていた東京は、急激な近代都市化が進められていた。増え続ける工場や家庭からの排水で、川の汚染、臭気は耐え難いものとなっていた。
中小河川を暗渠化して下水道を整備することは都市化への効率的な対策であるし、外面的にも衛生的にも急務とされたのだった。かくて川のある風景が多かったはずの東京は川に蓋をして理想の都市づくりを進めたのだった。
どのくらい時代を遡ればよいか分からないが、昔、ゆったりと流れていたであろう川の姿を思い描いてみる。多様な川辺の生きものたちは生態系の一端を担って、せせらぎの中で共同生活していたことだろう。
利便性、時短、合理化。そんな言葉を前面に打ち出して便利な世の中を追求すればするほど豊かな時間は失われていく。慌ただしく全国津々浦々を周遊しなくとも、旅はいつも身近なところにあるのだと思う。 水は無心に高きより低きに流れる――。水に理想的な生き方を投影した老子の教え「上善如水」。今日はこの純米吟醸酒を持ってきた。
アテには、噂の「缶つま」を一緒に買っておいたのでいただいてみよう。「缶つま」は、こだわりの素材と手間を惜しまぬ製法で作られた缶詰のシリーズで、これを使った人気のレシピなどもある話題の缶詰なのだ。種類も豊富でお気に入りの一品が見つかること請け合いだ。例によって、迷いに迷ってソトノミストが選んだのは「たこ・燻製油漬」である。
しっとり柔らかなたこを噛むと程良い燻製の香りが広がった。それを上善水如がすっと喉に流してくれた。ソトノミを終えて、缶に残った油をちり紙に吸わせて持ち帰るソトノミスト。
油は排水口に流してはいけないのです。