本日のソトノミストは都電荒川線の「飛鳥山」を降りた。
秋晴れ。
今日は澄んだ空気を仰いで、飛鳥山公園の豊かな緑に包まれながらのソトノミを目論む。
肌寒い季節のソトノミ敢行はつらいものがあるが、そこは独り楽しく飲むため。ガマンなのだ。
東京都北区の要所である王子エリアに位置する飛鳥山。
ここ飛鳥山公園は江戸の頃からピクニックを楽しむ場所だった。この公園は八代将軍吉宗が江戸庶民の行楽のために1,270本もの桜を植樹し、開放した日本初の公園なのだそうだ。
清々しい週末。今日は園内の多目的広場にあるステージで何やらイベントが開催されており、若手お笑い芸人が見物客たちを盛り上げていた。
途中から見物客となったソトノミストには訳が分からなかったが、ステージの若手芸人が、
「みなさんご一緒に!! はい!! ショーロンポー!!!」
とやると、観覧客たちは振付けしながら一斉に、
「ショーロンポー!!」
大いに盛り上がっているのだった。
途中からではどうも笑いのどよめきに入り込めず、後方へと歩き出したソトノミストが目にしたのは立ち並ぶたくさんの魅力的な露店たちだった。
酒のアテにばっちりな焼き物や揚げ物なんかが揃いもそろって目の前でいい焼音を立て、その香りは食欲、ひいては酒欲を刺激する。
生ビールもあれば各地のワイン、地酒の露店なんかも出ているではないか。食指が動きそうになるが、いやいやいかんと半ば目を閉じて歩き出す。すると、先ほどのお笑いイベントとは無関係とばかりに大道芸人がバルーンアートをお披露目している。
もう10年以上も前になるか。ここの噴水で我が子を行水させた夏の日々は。
桜の名所としてはもちろん、一年を通じて四季の移り変わりを肌で感じる飛鳥山。
新東京百景に選ばれたり遺跡が発掘されたりと、なにかと見どころ満載な飛鳥山公園には現在3つの博物館が並んでいるのをご存知だろうか。
「北区飛鳥山博物館」と「渋沢史料館」、そして「紙の博物館」。
これら3つの博物館が公園内に集まって、20年になるのだという。
「紙の博物館」は、かつてJR王子駅の線路を挟んで向う側にあったが、周辺の首都高速道路の整備にともない飛鳥山にやって来た。そして飛鳥山の地下には渋滞緩和のために造られた首都高速中央環状線のトンネルが完成。
枯れ葉の舞う音とか、遊ぶ子どもたちのはしゃぐ声くらいしか聞こえてこないこの公園の足もと深くに、常時ビュンビュンと車が走っているというのがちょっと想像できない。
さて、「紙の博物館」では紙すき体験などができると聞いてやってきたのだが……。
残念ながらリニューアル工事で休館中となっていた。リニューアルオープンは2020年3月17日か。 それじゃあという訳で「渋沢資料館」へ向かってみる。
幕末から昭和6年に91歳で没するまで銀行や保険業、製紙業など500もの企業の育成にかかわり、教育や福祉にも尽力した実業家・渋沢栄一の業績を伝える「渋沢資料館」。
渋沢栄一は、令和6年からの新1万円札の顔になることでも再注目されている人物だし、令和3年から放送予定のNHK大河ドラマ「晴天を衝け」の主人公にもなる大人物なのである。動機は十分、せっかくだから見ておこう。
余談だが、渋沢栄一は過去にお札の肖像の候補になっていたそうだ。しかし当時の技術では、ひげがないと偽造されやすいという理由で落選になったとのこと。そう言われてみれば昔のお札はひげのある肖像ばかりだったかも知れない。
おや、工事している?
「渋沢資料館は休館中です。2020年春、リニューアルオープン予定」。こちらも休館中とは……。
よく調べてから来ればよかった。
でも大丈夫。もうひとつある。
「北区飛鳥山博物館」は開館中!
建物に入ると目前には「あすかやまミュージアムショップ」。ここは北区に関する書籍やオリジナルグッズが販売されている。良心的な価格帯で絵葉書なら1枚20円から。
開催中の企画展、「古写真はわたしたちに何を伝えるのか ―写された幕末・明治の北区の名所―」(無料)を観覧する。
飛鳥山、滝野川の名所など、地域の写真のかなりの点数が無事に残っていることに驚かされた。昔は一枚の写真を撮るのにも大変な労力が要ったのだな。現代人はスマホで写真も撮れて、現像もせずにその場で見られてなんと便利なことか。すぐにSNSで皆に見てもらえるし。
飛鳥山博物館を出て園内を歩くと、すぐに古めかしくも威風ただよう建造物が現れる。
実は今歩いているのは旧渋沢庭園で、これらの建物は大正期に建てられた「晩香廬(ばんこうろ)」と、「青淵文庫(せいえんぶんこ)」という建物。どちらも国指定重要文化財。
この建造物を前にするなり自分が見知らぬ異国に迷い込んでしまったような感覚を覚えた。
青淵文庫は渋沢栄一の書庫として建造されたのだそうだが、国内外からの賓客をもてなす場としても使用されたとのこと。また現在ではドラマのロケ地としてよく使われるらしい。なお、「青淵」は渋沢栄一の号。
残念ながらどちらの建物も現在は休館中で中には入れなかったが、次の機会にはじっくりと館内も見てみたいと思う。
次は児童エリアにやってきた。ここもずいぶん久しぶり。
公園中央に位置するこのエリアにはたくさん遊具がよりどりみどり。子どもたちはお気に入りの遊具を我先に奪い合う。
また昭和47年まで走っていた蒸気機関車D51や、昭和53年まで走っていた都電荒川線6000形の車両の展示もあって、子どもたちに大人気のお遊びスポットだ。
さあ、楽しみにしていた今日のソトノミ。
今日のソトノミドリンクは、おそらく日本中のどこの居酒屋にも置いていないだろう。
それがこれ。ジャーン(効果音)。
〝辛子めんたいコーラ割り〟だ。
お米と明太子とチーズは絶対に、合う!
という確信のもとこのコラボレーションに決めた。
念のためもう一度。
米焼酎、めんたいコーラ、チーズ。絶対に、合う!(前振りっぽいか)
「辛子めんたいコーラ」は静岡県にある木村飲料の商品。
木村飲料のホームページには「富士山ラムネ」「ちびまる子ちゃんさくらコーラ」「男のちょい割る強ソーダ」などなど気になる炭酸飲料が並んでいる。
しかし「辛子めんたいコーラ」という商品名から想像して、三ツ矢サイダーとかカルピスソーダみたいに喉の渇きを潤すタイミングで飲んだら痛い思いをしそうだったので、夏のあいだは冷蔵庫の奥で眠らせておいた。
ちなみに辛子めんたいコーラは、夏に催されたマニアの祭典「マニアフェスタ」で購入。
明太子を愛してやまない「田口めんたいこ」のマニアブースには、これでもかと明太子グッズが並んでいた。そこでこのドリンク(オリジナル缶バッチつき)を発見。
なお、ツイッターで田口めんたいこ氏のフォロワーになると「おはめんたい~」の朝ツイートがやってくる。
ふぅ、ここだけで「めんたい」の文字を10回も打ってしまった。(以下、めんたいコーラはMCと略す)
薄いピンク色の液体だ。
太陽の光に照らすと、小学校の校庭にやってきた消防車と救急車を写生したのを思い出した。そう、あのとき絵の具で描いたときの筆洗の水の色を。
なぜそんな昔のことを連想したのか少し不思議に感じながら、ひとくち飲んでみる。
あれ、この味。こんな風邪シロップ子どものころ飲んだような気がする。ということはこのまま眠くなるのかな。
いや違う、この味は。駄菓子屋のチューペットに炭酸を足して、唐辛子をほんの少しだけ入れた感じかな。
辛子めんたいコーラ割りのテイストに軽い不安を感じながら、発作的にチーズが食いたくなり一気に6Pを3個がっついた。
やはり明太子にはチーズが、合う。
いや、合うというより口の中をチーズで元に戻したかったのかも知れない。MCサワーを飲んだのを無かったことにしたかったのかも知れない。
これを飲むのは4年に一度でいいと思った。そのくらい衝撃のMCサワーだった。
ソトノミを終え、大人気の飛鳥山モノレール「アスカルゴ」(無料)に乗って駅へと向かう。
このあと口直しにと、王子駅前の「平澤かまぼこ」に立ち寄ったソトノミスト。
熱いおでんの大根をつついて渋沢栄一を調べてみる。
孔子の「論語」の中に理想の資本主義を見出した渋沢栄一。その著書「論語と算盤(そろばん)」で道徳と経済の調和を説いている。
義利合一。金儲け主義に走ることへのブレーキ役となるこの思想は戦後の復興と経済成長に大きく寄与し、現在も多くの経済界の指導者たちの指針となっている。
論語は人類史上最大のベストセラーかも知れない。いや、聖書には及ばないのかな。
そんなことを考えながら孔子の言葉を味わってみる。
「居処は恭、事を執りて敬、人と与わりて忠なれ」
きょしょはきょう、ことをとりてけい、ひととまじわりてちゅうなれ、か。
慎み深く誠実に生きることだったら、なんとか自分にもできるだろうか。
参考:『いまを生きる論語』(岩﨑淳/さくら社)