高地で見る、手の届きそうな雲の高さが好きです。
いま僕は、標高1500メートルほどの場所にある、中米グアテマラのアティトラン湖のほとりに立っています。
グアテマラ西部は、僕が過去に訪れた土地の中では最も民族衣装姿の人々が多い地域で、市のたった日に町の広場に足を運ぶと、野菜や果物を買い求める鮮やかなウィピル姿の女性たちを目にする事ができます。石造りの建物や通りに敷かれた石畳、そして背景に広がる緑の山々。活気溢れる露天市はとても華やかな光景です。それは観光客向けのありがちな演出ではなく、年月を経ても変わらない自然な暮らしの姿でした。
グアテマラの山間部は、珈琲の産出地としても広く知られています。高価な珈琲豆は主に輸出用作物と考えられているため、地元の人々が口にする事はほとんどないようですが、町にある珈琲専門店では、焙煎された豆の芳ばしい香りが漂っていました。僕は湖の近くの坂道で小さなカフェを見つけ、足を休めようとカウンターの椅子に腰掛け、一杯のエスプレッソを注文しました。
波の訪れ
携帯電話やインターネット、衛星放送などの普及はどこの国でも顕著に見られ、山あいの村であっても、それらの技術は当たり前のように広がっています。インターネットが繋がる事で、それまで遠い世界にあった情報が、物理的な距離を越えて簡単に行き交うようになりました。現地の人々はそれによって快適さや潤いを感じているかもしれませんが、その変化を少し残念に思ってしまう気持ちは否めません。その土地土地の独自性が失われ、世界が標準化されてしまうように思うからです……。
これは、昔ながらの生活が息づく、グアテマラのある町で見かけた様子を写したものです。50代くらいの左の女性はウィピルと呼ばれる伝統的な衣装を身に着けています。その右側に写る同い年くらいの女性二人は、一人がジーンズにTシャツ姿、もう一人は鮮やかなウィピルを着ています。
僕たち日本人は、とうの昔に洋服の暮らしに変わってしまい、この時代に普段着として着物を身につけている姿を見る事はほとんどありません。10年後、またこのグアテマラの町を訪れた時にも、ウィピル姿の彼女たちに出会えるようにと願っています。